「恒常的な指揮権発動」状態(水島朝穂)

承前*1

検察庁法改悪(「検察幹部の定年延長」)問題を巡って、5月15日付の『毎日新聞』は、水島朝穂憲法学者早稲田大学*2、高井康行(弁護士、元検事)、森功(ノンフィクション作家)へのインタヴューを掲載している。
水島朝穂氏へのインタヴュー(吉井理記*3「「政治検察」生む暴挙」)から抜書きしておく。


(前略)現在の検察庁法22上にある「検事総長は65歳、その他の検察官は63歳で退官する」という規定は、1947年にこの法律ができた時からあった。
こんな法律はほかにはない。一般の国家公務員には81年の国家公務員法改正まで定年はなかったし、首相や国会議員に定年があれば、みんな怒るだろう。
なぜ検察官だけか。強い捜査権限があり、人を裁判にかける公訴権を持つ唯一の存在だからだ。
それゆえ検察庁法は4条で検察官を「公益の代表者」とし、そのような強大な存在が職に居座り続けないように定年を設け、自動的に退職するようにしたのだ。
(略)定年を一律65歳に引き上げ、最高検次長検事、高検検事長、地検検事正には63歳で役職を去る「役職定年」の規定が新たに設けられた。
問題はここからだ。これらをすべてひっくり返すように、22条2項などで、検事総長ら検察首脳は、内閣が「必要」と認めれば、その役職にとどまったまま、役職定年はもちろん、65歳の定年後もその職に居座れる「定年延長」規定を加えようとしているのだ。
役人は定年までの持ち時間と少ない首脳ポストをにらみつつ、出世競争をしている。検察官も同じだ。定年が迫り、本来は就けない首脳ポストでも、時の政権が定年延長を認めれば就任できるとなれば、その検察官は政権の顔色を一切気にせず、政権の疑惑を捜査できるか。
内閣は検察を直接指揮できないなどという擁護論もあるが、誤りだ。実際、54年の造船疑獄で、時の吉田茂政権の犬養健法相は、検察庁法14条に基づき、検事総長を通じて検察捜査に介入し(指揮権発動)、自由党自民党の前身)幹事長だった安倍晋三首相の大叔父・佐藤栄作氏の逮捕を中止させた。
その前例を考えれば、時の内閣が、検察官の定年延長を判断し、首脳ポスト就任への道を閉ざす、あるいは開くことができる今回の法改正が意味する重大性が分かるだろう。「恒常的な指揮権発動」の状態が生まれるのだ。