何故しゃべるか

中島京子*1、北村紗衣*2「批評眼を持つと人生はもっと面白くなる。」『本の窓』(小学館)392、pp.14-21、2020


何回かに分けて抜書き。


中島 シェイクスピア劇は、セリフの量がものすごく多いですよね。
北村 (前略)シェイクスピア劇にセリフが多いのには理由があるんです。まず、舞台にはセットがありません。ほとんど背景がない所でお芝居をするから、状況をしっかり言葉で説明する必要がある。しかもシェイクスピアがよく公演を行っていたグローブ座は、一説によると、ぎゅうぎゅう詰めにすると三千人近くも収容できたと言われています。
中島 すごい。そんなに大きい劇場だったんですね。
北村 今みたいなオペラグラスもない時代でしょう。後ろの方の人は、舞台上で演者が何をやっているのか、ほとんどわからない。だからセリフでいろいろなことを説明しなければならなかったんです。
中島 舞台を観に行ったのに、まるでラジオを聴くみたいですね。
北村 そうなんです。学生たちにも、シェイクスピア劇は、大相撲のラジオ中継みたいなものだと思ってね、と冗談まじりに話しています(笑)。(p.16)
能舞台にも「セットがありません」。ただ、松の木の絵があるだけ。お能では、地謡と役者(シテ、脇、ツレ)が分かれ、状況説明は地謡が担う。この分業は歌舞伎にも受け継がれ、浄瑠璃によって状況説明が行われることになる。日本の藝能からすれば、イングランドの芝居でそのような分業が起こらなかったことが不思議ということにならない?