これも「大正」!

承前*1

小田切秀雄「豊熟する大正文学」『ゆりかもめ』(東京都生活文化局コミュニティ文化部)52、pp.8-10、1995


曰く、


大正文学は、ほぼ明治の末年から大正の末年近くまで(一九一〇年代から一九二〇年代中頃まで)と見ていいが、日本の近代文学が最も豊かに熟した時期で、作品がどれもたっぷり時間をかけて念入りに仕上げられている。有島武郎の『或る女』、夏目漱石の『道草』、志賀直哉の『暗夜行路』、田山花袋の『田舎教師』、徳田秋声の『爛』、長塚節の『土』、森鷗外の『雁』、佐藤春夫の『田園の憂鬱』、宮本百合子の『伸子』等々が代表的な長編小説だが、短編にも芥川龍之介菊池寛広津和郎宇野浩二らのすぐれた作品がある。高村光太郎北原白秋萩原朔太郎室生犀星らの詩、斎藤茂吉、島木赤彦、若山牧水らの短歌、等も大正期の文学のレベルの高さを示している。文芸評論の領域はこの時期はやや見劣りがするが、それでも広津和郎の『作者の感想』などは現在でも愛読されている*2。(p.9)

道草 (新潮文庫)

道草 (新潮文庫)

田舎教師 (新潮文庫)

田舎教師 (新潮文庫)

土 (新潮文庫)

土 (新潮文庫)

雁 (新潮文庫)

雁 (新潮文庫)


漱石の『道草』*3や鷗外の『雁』が「大正」だというのは自明な事柄として知ってはいたけれど、『暗夜行路』*4長塚節の『土』や田山花袋の『田舎教師』が「大正文学」と言われると、一瞬きょとんとしてしまうということはある。