『華麗なる一族』(ドラマ版)についてのメモ

華麗なる一族 DVD-BOX

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先月末に奥野さんにお会いしたとき、待ち合わせの場所が「華亭賓館」だった。そのとき、ここは木村拓哉も泊まったホテル*1ですよといったのだが、それでドラマ『華麗なる一族*2のことを思い出した。観たのはかなり以前なのだが、忘れないうちに幾つかメモをしておく。
このドラマは原作の時代設定(1960年代後半)そのままにドラマ化されている。資本自由化による外資進出の危機を煽り金融業界再編を画策する大蔵官僚の陰謀に登場人物たちが翻弄される、また産業資本主義(製造業)と金融資本主義という資本主義の2つの側面を描くというストーリーは、グローバリズムだのハゲタカ外資だのに右往左往している21世紀を舞台にしてもそれなりのリアリティがあったかもしれない。ただ、一応財閥で支配的な株主でもあるのだから、株主としての権力を行使すればそれで済むのであって、鉄平に対していちいち色々な謀略を仕掛ける必要はあるのかという疑問はある。それはさておき、1960年代後半の光景は上海におけるロケによって再現されているようだ。驚いたことに「傷痍軍人*3まで再現されている。ただ、私が子どもながらに記憶している 1960年代後半はここで再現されている時代よりももうちょっとモダンだったような気もした。例えば車のかたちとか。万俵財閥の本拠がある神戸の風景は上海の外灘と神戸の山を合成したもの。私は視ていて、すぐに上海だと気がついたのだが、一般の視聴者にとって違和感がなかったのかどうか。
華麗なる一族』というのは通俗版『暗夜行路』である。何故通俗版なのかといえば、登場人物の名前がベタだからである。何しろ、鉄鋼業を引き継ぐのが「鉄平」で、銀行業を引き継ぐのが「銀平」だ。製糸業なら糸平で、キャバレーならキャバ平か。花形満や左門豊作と同じで、名前からその人物が担うキャラクター或いは属性がわかってしまうのだ*4。さて、このドラマのオチのひとつは、戦争中の血液型判定には誤りが多かったということなのだが、それは事実なのか。
木村拓哉の演技力については賛否両論があるようだが*5、それよりも問題なのは万俵大介役の北大路欣也だろう。北大路欣也の身体の動かし方は時代劇のそれであって、現代劇の所作ではない。現代の企業家ではなくて殿様を演じているつもりなのか。

暗夜行路 (新潮文庫)

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同じ 1960年代後半を舞台にしたものでは、〈3億円強奪事件〉をネタにした塙幸成監督の『初恋』の方がリアルだった。神戸じゃなくて東京という地理的な条件もあるのだろうけど、そこで再現されていたのは、私が目撃した当時の自動車(3億円事件が起こった当時、私の親もカローラに乗っていた)や風景であり、また大人のファッションだった。