ポスト真実と宝籤

先ず『朝日新聞』の記事;


宅配業者をチェーンソーで脅す 容疑の男、動画を投稿か

朝日新聞デジタル 1/5(木) 23:43配信



 宅配便を巡るトラブルから、ヤマト運輸の営業所でチェーンソーを使って従業員を脅したとして、三重県警は5日、暴力行為等処罰法違反容疑で、同県伊賀市玉瀧、トラック運転手長谷川和輝容疑者(27)を逮捕し、発表した。一連の様子を撮影した映像を動画サイトに自ら投稿しており、「過激な演出を配信することでイライラを発散しようと思った」と供述しているという。

 伊賀署によると、長谷川容疑者は昨年12月3日早朝、伊賀市にあるヤマト運輸の営業所で、「さっさと荷物出せや」「配達詐欺しやがってオラ、ボケ、アホんだらー」などと言ってチェーンソーを作動させ、男性従業員(53)を脅した疑いがある。

 ヤマト運輸によると、前日夜、配達員が長谷川容疑者の自宅に荷物を届けようとしたが、本人が不在だったため、営業所に持ち帰ったという。県警は、長谷川容疑者がこの対応に腹を立てたとみている。

 長谷川容疑者が営業所を訪れた様子とみられる動画は、ユーチューブに投稿されていた。「全世界配信やぞ」などと言いながら撮影し、動画には対応に当たった従業員の姿も映っているという。元の動画はすでに削除されている。

 ヤマト運輸の本社は昨年12月末にトラブルや動画を確認。県警に相談し、5日に被害届を出した。同社は「従業員の対応にミスはなかったと認識している」(広報戦略部)としている。

 長谷川容疑者とみられる人物は5日、ユーチューブに「謝罪会見」と題する動画を投稿。「ヤマト運輸に関係する皆様にご迷惑をおかけしました。いかなる処罰も受けることを覚悟しています」と述べ、頭を下げている。(田中翔人、国方萌乃)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170105-00000083-asahi-soci&pos=2

ところで、多分に吉本新喜劇の匂いがするこの長谷川さんのパフォーマンス、YouTubeへのアクセス数というか広告のクリック数を増やすためのネタだったということになっているようだ。「腹を立てた」というより「腹を立てた」ようにみえる自分の姿を晒すことによってアクセス数を稼ぐ。Post-truthが流行語になるだけのことはある。


中川淳一郎「チェーンソー脅迫YouTuber逮捕、収入は7年半で約45万円 ネットは「勝者総取り」、参入はリスクだらけ」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170106-00010013-abema-soci&p=1 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170106-00010013-abema-soci&p=2


曰く、


2017年初頭のネット界を騒がせたバカニュースといえば、なんといってもチェーンソーを持ち出し、宅配業者を脅した様子をYouTubeで動画公開した男が逮捕された件だろう。YouTubeのチャンネルごとの推計収入が分かるサイト・TuberTownによると、男の収入はこの7年半で約45万円だった。577本もの動画を投稿してこの程度。テレビ朝日の取材に対しては、「脅す様子を動画のネタにしたかった」といった趣旨の発言をした。これで一体いくらの広告収入が入るのかはわからないが、逮捕され、実名報道されて一生「チェーンソー男」など罵りを受けてしまうのはまったくもって割に合わない。

(前略)ABBAの『The Winner Takes It All』という曲があるが、意味としては「勝者総取り」である。ネットの世界ではこうした「勝者総取り」はもはや伝統である。それこそブロガー、YouTuber、ニコ生主、アフィリエイター、メルマガなど様々な「これからはこれが儲かる!」とすでに成功した「勝者」が煽り、後発組の屍が累々となっていくのである。
要するに、「YouTuberはもう競争が激し過ぎる。もはや参入しても勝てる勝負をするのは難しい」。

インターネットがもたらしたものの一つが「誰でも世界に対して発信できるから、誰にでも勝てる可能性がある」という説の普及である。原理としてはその通りである。ただし、とてつもなく重要なのが「先行者利益」というヤツである。スマホのパズル系アクションゲームしかり、「サンシャイン牧場」をはじめとした農園系ゲームしかり、一発当たると次々と後発が参入していく。しかし、3番手以降が勝てる見込みは限りなく少ない。それは個人でも同様である。
今引用したところなんかはふむふむと肯くのだけれど、後半で「宝くじ」が「競争が激し過ぎる」世界の例として挙げられている。これは幾つかの意味で不適切だろうと思う。「宝くじ」というのは「勝者総取り」ではない。カジノや競馬やパチンコといったその他の博奕と同様に、宝籤の場合でも先ず胴元が然るべき額を控除してしまう。その後に残金が「勝者」に分配されるということになる。また、宝籤は「先行者利益」というのとも関係ないだろう。宝籤は(ルーレットや丁半博奕でもそうだろうけど)確率論に身を任せるだけなので、「先行者」が新規参入者よりも有利だということはない。
ところで、宝籤というのは或る意味で男女産み分けに似ているなと思った。男の子が生まれるか女の子が生まれるかというのは確率論の問題でしかない。自然に任せておけば、少なくとも社会とか人類といったマクロな準位では男女の比率は1;1に近い仕方で均衡するわけだ。それにも拘らず、昔から男女産み分けに関しては、呪術とか疑似科学の話をよく聞く。かくかくしかじかなセックスをすれば男の子が生まれる、女の子が生まれるとか。以前、電磁波を強く浴びた精子からは女の子が生まれやすいと真顔で言っていた人がいたぞ。宝籤も本当に勝ちたいなら抽選の段階で如何様に関与するしかないのだけれど、何処其処の売り場で買った方がいいとか、連続した番号で買った方がいい、いや番号はばらけた方がいいとか、そういう言説が飛び過ぎなのでは?