猫だった本

秋満吉彦「いつも原点を思い出させてくれる名著」(in 『わたしと「名著」』*1NHK出版、pp.4-5)


クロード・レヴィ=ストロース『構造・神話・労働』*2について。これはレヴィ=ストロースの日本での講演集で、実は私が初めて買ったレヴィ=ストロース本でもある。初版のカヴァーはレヴィ=ストロース自筆の猫の絵だったけれど、後に出た新装版では別のイラストになっているようだ。


彼は、世界中をフィールドワークした人物として有名だが、日本も訪問している。当時「人間にとって労働とは何なのか」を研究していたこともあって、日本の職人の働き方を徹底的に観察した。彼が気づいたのは、西洋人の「働く」と日本人の「働く」は違うということだった。
西洋人の労働というのは、自分の頭にあるプランを対象とか自然にあてはめる。たとえばコンクリートで何かをつくるとしたら、材料をペースト状にして、自分が想像した設計図に完璧にあてはめてつくる。
ところが日本人は違う。たとえば石垣。自然の石をどう組み合わせたら石垣になるかを考える。陶器をつくる人は「この土がなりたがっている形を引き出す」と言ったりもする。日本の職人は何かを支配しようとするのではなくて、素材が持っている素晴らしさ、潜在力を引き出そうとする。あらゆるものを開発して消費しつくしてしまう、先がないような文明の作り方ではなくて、日本人の、受動的に何かを引き出そうとする働き方こそが、労働の豊かさを取り戻す方法だというのだ。
この本に出合って、プロデューサーとしての仕事のやり方が激変した。支配せずに受け身になり、一緒に働いていた人の豊かな能力、内発性を引き出すやり方……気を緩めると忘れてしまいそうになるこの原点をいつも思い出させてくれるのがこの本なのである。(p.5)
「 世界中をフィールドワークした人物として有名だが」、他の人類学者はそれを殆ど「フィールドワーク」とは認めてはいないようだ。
さて、「 自分の頭にあるプランを対象とか自然にあてはめる」というのは「西洋人」というよりも典型的な「エンジニア」の態度といえるだろう。「エンジニア」と対立するのは「ブリコルール」(Cf. 『野生の思考』)。