ルーツのために

中川友希「身元開示求め海外バンク利用」『毎日新聞』2021年12月29日


夫が「無精子症」で、「第三者精子による人工授精(AID)」*1を選んだ夫婦の話。この人たちにとって重要だったのは精子提供者の「身元」だった。


当初、日本産婦人科学会(日産婦)登録の医療機関でAIDを受けた。日産婦のルールではドナーは匿名。夫婦にはこのことが引っかかった。子どもが成人後にAIDで生まれたことを知って傷つくことがあり、早く告知をすることが重要だと、勉強会で学んでいたからだ。「子どもに告知し、『(ドナーは)どんな人なの』と聞かれても、『分からない。ごめんね』でいいのだろうか」
夫婦が検討したのは、デンマークにある世界最大の精子バンク「クリソス・インターナショナル」*2。クリオスでは、身元を開示するドナーと開示しないドナーがいる。開示の方を選べば、子どもが18歳になると、精子提供をした時に登録したドナーの名前や住所、生年月日を知ることができる。

クリオスは2019年3月、日本語対応の窓口を開設した。20年11月までに国内で150人以上が利用。遺伝性疾患や感染症の検査を経た精子を凍結し、海外から郵送する。価格はドナーの身元を開示するかどうか、プロフィルの情報量、精液の状態などで異なる。身元を開示する場合のモデルケースで、送料、関税などを含め体外受精1回分で約19万円、人工授精5回分で約80万円かかる。
「20年の日本人利用者のうち、身元開示ドナーを選んだのは69%、趣味など詳細なプロフィルを記載したドナーを選んだのは98%だった」。