「人種」は外来

平野千果子『人種主義の歴史』*1から。


人種の語源は、意外にはっきりしていない。オクスフォード英語辞典(OED)では、英語(race)はフランス語(race)から借用したとしつつ、語源はイタリア語の可能性を示している。有力なのはラテン語起源説だが、もととなる語彙が何かをめぐって議論があるという。そのイタリア語(razza)はフランス語の古語がもととされる(イタリア語辞典ズィンガレーリ)一方、フランス語にはイタリア語から入ったようである(プチ・ロベール)。またドイツ語(Rasse)にはイタリア語起源の中世フランス語から入ったのだという(ドイツ語語源辞典)。錯綜しているが、さしあたりこの言葉はラテン語系諸語に始まるということだろうか。(p.4)
どの言語でも外来語扱いされている!

ただしこの言葉は、当初から今日の私たちが考える「人種」という意味で使われていたのではない。はじめは家系や血統、系譜などを意味していた。フランス語の辞典には同意語として「家族(famile)」や「家系・血統(lignee)」といった単語が記されている。それが間もなく動物の種の下位区分を意味するようにもなった。いわゆる「人種」としての使用例は一七世紀に入ってから(略)「人種の分類」がなされる時代である。
さらに近年になっても、人種という語が統一的な意味で使われていたわけではない。実は(略)人種主義的/者という言葉の初出自体は、一九世紀末のやはりフランスにあるとされる。一八九七年一一月の反ユダヤ主義の新聞『リーブル・パロール自由な言葉)』では、国際主義が高まるなかで、集会では「真にフランスの声、すなわち真に人種的な声」をあげなければならない、と主張されている。当時の保守派を代表するシャルル・モーラス*2にならうなら、「人種主義者」とは、「「フランス人種」の存在を信じ、その一体性を保とうとする者」のことである。こうした意味での人種主義的/者という言葉の使用例はm一八九五年より前にすでに見出せるともモーラスは述べている(タギエフ『偏見の力』)。(pp.4-5)
平野さんによれば、この時代、「労働運動が進展し、国際主義が力を得ていた」。その一方で、「国際主義を体現する、コスモポリタンな存在」としてのユダヤ人をスケープゴートにする反ユダヤ主義も昂揚していた。さらに、西欧においては「国民国家の形成期」でもあった。「国際主義」と「国家主義」(「ナショナリズム」)の拮抗(p.5)
ところで、Carole Reynaud-Paligot “Maurras et la notion de race” in Olivier Dard, Michel Leymarie & Neil McWilliam (eds.) Le maurrassisme et la culture: L'action française, culture, société, politique (III) , Presses Universitaires du Septentrion, 2010という論文がウェブで読める;


https://books.openedition.org/septentrion/44400