「余生」はない

承前*1

加賀直樹「源流の人 第5回 大貫妙子」『本の窓』(小学館)399、pp.8-14、2020


抜書き。


朝日が昇る前、猫の鳴き声で起こされ、たおやかな声を保つために、新鮮な野菜を摂る毎日。毎晩、本を読みながら床につくという彼女が、最近感動した小説は、『月まで三キロ』(伊与原新著)。死に場所を探しタクシーに乗った男を、運転手は山奥へと誘う。「実はわたし、一三八億年前に生まれたんだ」――科学のきらめきが、人の想いを結びつけていく短篇集だ。大貫はこう語る。
「これを読んだ時、涙が止まらなかった。この宇宙っていう広大な海のなかに、私たちはいるんだ、っていうものすごく大きくてあたたかいものに触れた気持ちになったんです」(pp.13-14)
最後;

六十代後半を迎えている大貫。これまで、長生きしたい、と考えたことはとくに無いという。その代わり、と釘を刺し、大貫は最後に、こう言い切った。
「あたりまえだけど、死ぬまで生きる。死ぬまで生き続けて、スッと終わりたい。ヘンでしょ、『老後』とか『余生』っていう言葉。『余った生』なんて(笑)。私、『老後』とか無いと思っている。だから『死ぬまで生きる』」(p.14)