大石始「盆踊りとロードサイド・ラップ」『ちくま』(筑摩書房)598、pp.12-13、2021
大石氏は『盆踊りの戦後史』という本の著者。
「ロードサイド・ラップ」の紹介;
三重県四日市にJEVA*1という少々風変わりなラッパーがいる。代表曲のひとつは、ロードサイドのショッピングモールについてラップした「イオン」*2。「オラが街にも出来たぜイオン」と繰り返されるショッピングモール賛歌ともいえる曲だが、ラストにはこんな一節も飛び出す。「昔は良かったじゃないけど/デカい力に呑まれた様な気分さ」――利便性を追求した心地よさとそうした生活に巻き込まれるもどかしさが、わずか数十字に凝縮されているのだ。
ショッピングモール発のラップグループというと、Tohjiやgummyboyといった90年代半ば生まれのラッパーたちで構成されるMall Boyzというグループもいる*3。彼らは幼いころから新興住宅街のショッピングモールで多くの時間を過ごし、人工空間に対する愛着をラップの中に織り込んでいる。(p.12)
三浦展は著書『ファスト風土化する日本』(洋泉社)*4において、共通の風土も歴史も存在せず、無味の消費社会が形成された高度経済成長期以降の郊外について、「地域固有の歴史、伝統、価値観、生活様式を持ったコミュニティが崩壊し、代わって、ちょうどファストフードのように全国一律の均質な生活環境が拡大した」と定義したうえで、その状況を「記憶喪失のファスト風土」と命名している。
JEVAやMall Boyzは「ファスト風土」に抗うかのように「私たちはここに生きている」と宣言し、確かな風土と歴史をそこに刻み込もうとしているのかもしれない。彼らの作品は優れた批評性があると同時に、「文化的なものは何もない」とされるロードサイドにも表現の種があることを教えてくれる。(ibid.)
- 作者:三浦 展
- メディア: 新書
*3:See eg. THE MAGAZINE「Mall Boyz | 唯一無二のスタイルで話題沸騰のラッパー Tohji & gummyboy を擁するボーダレスなクルー」https://magazine.tunecore.co.jp/stories/4792/
*4:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080808/1218172800 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110206/1296966968 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131217/1387215045 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20140730/1406687782