承前*1
中島京子、北村紗衣「批評眼を持つと人生はもっと面白くなる。」『本の窓』(小学館)392、pp.14-21、2020
また抜書き。
(前略)私はカズオ・イシグロの作品のファンで『わたしを離さないで』*2も何度か読み返しているのですが、主要な登場人物のエミリ先生とマダムについて、北村さんがご指摘されているようなレズビアンのカップルとして描かれていたということは、まったく気が付きませんでした。
北村 エミリ先生のことをやたら「ストレート」という言葉を使って表現しています。日本語では「真面目な人」という意味で訳されますから、気づかないかもしれませんが、「ストレート」には「同性愛者ではない」という意味があります。読者のミスリーディングを誘うような書き方をしていて、最後にエミリ先生がマダムのことを「ダーリン」と呼ぶところでレズビアンだったことを明かす、カズオ・イシグロらしいテクニックだと思います。日本語版ではその箇所が明確に訳されていないも、わかりにくい理由です。レズビアンであることをあまり明示してもいけないので、訳者の方はさらっと流したのだと思います。
中島 なるほど。そんなしかけが隠されていたんですね。今度原文で読み直してみます。作家は、わかる人はわかってくれと思って書いているけれど、すべての読者がわからないといけないとは思っていない。だからこそ、読み込んで発見する喜びがあるんですね。(pp.17-18)
- 作者:イシグロ,カズオ
- 発売日: 2008/08/01
- メディア: 文庫
*1:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/06/25/010828
*2:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101229/1293590871 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101231/1293772306 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171006/1507216381 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171016/1508130214 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/23/103655