ヒロリン!

呉智英*1「JRの“暴君”による恐るべきオルグ(組織化)の技術」https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190610-00000015-pseven-soci


最初は、松崎明*2についてのノンフィクション、牧久『暴君』の紹介。「松崎は、当事者でない私からすれば、アッパレな英雄にさえ見える」という。「英雄」というよりは梟雄というべきではあろう。さて、「恐るべきオルグ(組織化)の技術」ということだけど、別に具体的な「技術」が言及されているわけではない。或る「左翼運動家」の「松崎さんは労働運動とはこういうものだよ、の喩えとして、職場で酒を飲みながら、猥談をする話をした」という言葉が紹介されているだけだ。呉氏は、(カクマルの)黒田寛一マルクスエンゲルスレーニンも「オルグの要は酒飲んでエロ話だ」とは言っていないと感心しているのだ。多分、ここでみんな脱力。因みに、「酒飲んでエロ話」で「オルグ」ができたのは、(まさに旧国鉄のような)ホモソーシャルな空間(男だけの世界)での話。21世紀においてはただのセクハラ。
さて、後半部は本当に驚いた。


ところで、少し前の本だが、現代の珍書怪著ベストテンの一冊に入る本を紹介しよう。村田宏雄*3オルグ学入門』(勁草書房)である。一九八二年初版以来版を重ね、今も入手可能だ。

 著者は東大社会学科卒業の社会学者で、大学教授も務めた。項目だけ拾っておく。

「非力大衆を強力化する方法」「従来のオルグ方法の欠点」「科学的オルグ技術の開発」「大衆欲求の分析とその方法」「感情オルグの基本型」「三段論法的推理とその誤まる部分」…。

 酒とエロ話は全く出てこない。村田センセイが理論家タイプであることだけはよく分かる。幸か不幸か、この本によってオルグ、さらに革命が実現したことはない。

オルグ学入門

オルグ学入門

オルグ学入門』て、今でも版を重ねているのね。村田先生が亡くなられてから既にかなり経つというのに。
私のように実際に村田先生の授業を受けたことがある人間から見ると、ちょっと笑いが止まらない。『オルグ学入門』に「酒とエロ話は全く出てこない」ということだけど、大学内では「ヒロリン」と呼ばれることが多かった村田先生の授業その他での話というのはまさに「酒とエロ話」を中心に回っていたようなものだ。「理論家」ではなく実践にもコミットしていた。但し、左派ではなくどちらかというと右派。民社党や同盟に関わっていたので。「 この本によってオルグ、さらに革命が実現したことはない」かも知れないけれど、具体的な謀略の技術が述べられているので、悪用する奴がいたらちょっとまずいよねとは思う。だから、「酒とエロ話」よりも有用且つ危険であるとはいえるだろう。

ところで、「オルグ(組織化)の技術」ということなら、仏蘭西労働運動家に学ぶべきだろう。仏蘭西労働組合組織率は日本よりも低いにも拘らず、周知のように仏蘭西は世界的なストライキ大国である(Cf. 軍司泰史『シラクのフランス』)。

シラクのフランス (岩波新書)

シラクのフランス (岩波新書)