石黒一雄

自宅に帰るバスの中で知った。
朝日新聞』の記事;


ノーベル文学賞カズオ・イシグロ氏 英国の小説家

2017年10月5日20時29分

 スウェーデン・アカデミーは5日、2017年のノーベル文学賞を英国の小説家、カズオ・イシグロさん(62)に授与すると発表した。イシグロ氏の名前が発表された瞬間、報道陣からは驚きの声が漏れ、拍手が続いた。

 賞金は900万スウェーデンクローナ(約1億2500万円)。授賞式は12月10日にストックホルムである。

 イシグロさんは1954年、長崎市に生まれ、現在ロンドン在住。日本名は石黒一雄。5歳の時に父の仕事の都合で一家でイギリスに移住し、83年に英国籍を取得した。

 イシグロの名前を世界に広めたのは、英国で最も権威ある文学賞ブッカー賞を受けた「日の名残(なご)り」(89年)だ。荒涼とした英国の自然を背景に、英国貴族につかえる老執事の人生をつづり、英国を代表する作家となった。映画化もされ、アカデミー賞の8部門にノミネートされた。

 カフカ的不条理に放り込まれたピアニストが主人公の「充(み)たされざる者」(95年)、日中戦争下の上海を舞台にしたミステリー仕立ての「わたしたちが孤児だったころ」(00年)と、一作ごとに新境地を開拓した。

 2005年に発表した「わたしを離さないで」は、臓器を提供するためにクローン技術で生まれた若者たちの苦悩を描き、大きな反響を呼んだ。「人間の本質とは何かを描きたかった」という。日本でもベストセラーになり、映画・ドラマ・舞台化された。
http://www.asahi.com/articles/ASKB56RPCKB5UCLV019.html

日の名残り (中公文庫)

日の名残り (中公文庫)

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロ*1ノーベル賞というのは、意識していた人もあまりいなかった一方で、言われてみれば、みんなあっさりと納得してしまうのではないか。

Alison Flood “Kazuo Ishiguro wins the Nobel prize in literature” https://www.theguardian.com/books/2017/oct/05/kazuo-ishiguro-wins-the-nobel-prize-in-literature


サルマン・ラシュディ*2の反応;


Ishiguro’s fellow Booker winner Salman Rushdie – who is also regularly named as a potential Nobel laureate – was one of the first to congratulate him. “Many congratulations to my old friend Ish, whose work I’ve loved and admired ever since I first read A Pale View of Hills,” Rushdie said. “And he plays the guitar and writes sings too! Roll over Bob Dylan.”
遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

詩人のアンドリュー・モーション*3のコメント;

According to the former poet laureate Andrew Motion, “Ishiguro’s imaginative world has the great virtue and value of being simultaneously highly individual and deeply familiar – a world of puzzlement, isolation, watchfulness, threat and wonder”.

“How does he do it?” asked Motion. “Among other means, by resting his stories on founding principles which combine a very fastidious kind of reserve with equally vivid indications of emotional intensity. It’s a remarkable and fascinating combination, and wonderful to see it recognised by the Nobel prize-givers.”

さて、村上春樹

一人の小説読者として、カズオ・イシグロのような同時代作家を持つことは、大きな喜びである。そして一人の小説家として、カズオ・イシグロのような同時代作家を持つことは、大きな励ましになる。彼が次にどんな作品を生み出すのか、それを思い描くことは、自分が次にどんな作品を生み出すことになるのか、それを自ら思い描くことでもある。(「カズオ・イシグロのような同時代作家を持つこと」in 『雑文集』、p.367)
と書いている。また、「ちょうど分子と分子が結合し、支え合うみたいに」「イシグロの作り上げた個々の作品がそれぞれまわりにある他の作品を補完し、支えている」、「いくつもの物語を結合させることによって、より大きな総合的な物語を構築しようとしている」と指摘して(p.366)、

(前略)彼は巨大なひとつの絵画を描いている。たとえば一人の画家が、礼拝堂の広大な天井や壁に長大な時間をかけて一面の絵画を描き上げるように。それは孤独な作業だ。時間もかかるし、消耗も激しい。一生仕事だ。そして彼はその一部を描き上げるたびに、何年かに一度、我々にその完成された部分を公開する。そして我々は彼の宇宙のより広がった領域を、段階的に同時進行的に眺望することになる。それはスリリングな体験であり、同時にきわめて内省的な体験でもある。しかし我々はまだその全体像を俯瞰してはいない。そこに最終的にどのようなイメージが現れるのか、それがどのような感動や興奮を我々にもたらすことになるのか、知るべくもない。(p.367)
とも述べている。
村上春樹 雑文集 (新潮文庫)

村上春樹 雑文集 (新潮文庫)