「常識」は直ぐ変わった

海原純子*1「常識だった「マスクは失礼」」『毎日新聞』2020年6月21日


曰く、


ほんの数カ月前のこと、駅の近くにある人気のパン屋の店員さんたちが、マスクをしないで接客をしていた。武漢からの入国制限が始まったが、まだ中国の他の地域からの観光客や欧米からおとずれる人々も、あまり減っていない頃だった。新型コロナウイルス感染拡大が、これほどになると思っていない人が多い時期だったが、まだ肌寒い季節で店内でせきやくしゃみをする人もいて、気になった。定期的にパンを買う店なので、店員さんと顔見知りで、ちょっと聞いてみたら、「本当は自分たちもマスクをしたいのですが、オーナーや上の人たちが、マスクは失礼だから着用禁止と言われてしまって」ということだった。

マスクは失礼、というのが、ほんの数カ月前までの日本の常識だった。マスクは表情が隠れてしまう。コミュニケーションがとりにくい、接客時にマスクでは失礼という考え方は新型コロナ感染拡大以前の状況では当然だった。また「マスクは感染の予防にはならない」ということも、新型コロナ以前には、専門家たちの意見だった。マスクをして接客した店員に「失礼だ」と怒った客の話なども報道された。
勿論、「現在では全く逆である」。
また、

慣習といえば、もうひとつ気になるのは、部屋のドアだ。部屋のドアはきちっと閉める、というのが、これまでの常識で、隙間を開けていると、お行儀の悪い人、と言われたものだ。現在は、寒気のために少し開ける、あるいは定期的に開けて空気の入れ換えをすることが新しい常識になりつつある。