“Never Let Me Go”始末

承前*1

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで(Never Let Me Go)』の第六章で小説のタイトルの由来が明かされている。「ジュディ・ブリッジウォーター(Judy Bridgewater)」という歌手の『夜に聞く歌(Songs After Dark)』に収録されている「わたしを離さないで(Never Let Me Go)」という曲。ところが、Judy Bridgewaterという歌手もSongs After Darkというアルバムも架空のもの。Bridgewaterという姓の実在の歌手としてはDee Dee Bridgewaterという人がいるけれど。
ジャズ・シンガーのStacey Kentはイシグロも作詞に参加しているアルバムBreakfast on the Morning Tram*2で“Never Let Me Go”という曲を歌っているのだが、これはRay Evans*3とJay Livingston*4の曲。また、Peter Howellという人はイシグロが描写するところのSongs After Darkのジャケットのあらましがボブ・ディランのBringing It All Back Homeのジャケットに類似していることを指摘し、ディランがジョーン・バエズとのデュエットで”Never Let Me Go”という曲を歌っていることに言及している*5。このディラン&バエズが歌っていた“Never Let Me Go”はJoseph Scottによるもの。なお、イシグロはPeter Howell氏に対して、 Judy BridgewaterはStacey Kentに基づいて創作したのではないと述べている。

Breakfast on the Morning Tram

Breakfast on the Morning Tram

さて、ここで様々な“Never Let Me Go”の響きにケイト・ブッシュの”Please don't let me go”(”Moving”)という響きを追加してみるのはどうか;

How I'm moved.
How you move me
With your beauty's potency.
You give me life.
Please don't let me go.
You crush the lily in my soul.
http://gaffa.org/sensual/l_moving.html
Kick Inside

Kick Inside