「ユン・チアン『ワイルド・スワン』の下放体験と小松左京「やぶれかぶれ青春記」の学徒動員体験とがそっくりな件」http://kj-books-and-music.hatenablog.com/entry/2019/01/14/120541
『ワイルド・スワン』の著者、張戎*1について、「私なら「チャン・ユン」と表記したい」ということだけど、本人は英語式にJung Changと名乗っています。それよりも問題なのは、「戎」という字は「ユン」とは読まないことだ。本人に向かって、或いは中国人一般に向かって、「ユン」と言っても、誰のこと言ってるんだ? という感じになってしまう。「戎」は中国大陸ではrongと羅馬字表記され、日本人にはやはり「ロン」に近い音に聞こえる。何故、「ロン」が「ユン」に化けてしまったのか。その前に中国語の羅馬字表記の話をしなければならないだろう。中国語の羅馬字化には、英語圏を中心に伝統的にジャイルズ=ウェード式というのが使われていた。Jungというのはこのジャイルズ=ウェード式の書き方。因みに、台湾人の名前や台湾の地名を英語の中で表記するときには、ジャイルズ=ウェード式を用いるのが今でも慣例となっている。まあ要するに、台湾人や台湾人の先生に中国語を教わった英国人がJungを見れば、「ユン」とは絶対にいわないで「ロン」というわけだ。でも、何故「ユン」なのか。中国語のことなど全然知らない無教養な英語話者がJungを見たら、ジュンと発音する筈なのだ。まあ、英語以外のゲルマン系の言語(和蘭語や独逸語など)ではJungをユングと発音するわけだけど。多くの人にとって、Jungから先ず想起するのは瑞西の精神分析学者だろう*2。それはともかくとして、『ワイルド・スワン』和訳本の初版が出た当時から、中国学者たちは「ユン」じゃなくて「ロン」だろうという批判をしていた。その批判が既に4分の1世紀も無視されているというのも凄い!
ところで、「張」が「チアン」になっているのにも違和感がある。「張」(zhang/chang)は一般的には「チャン」と表記されているけれど、「チアン」だとだらっと間延びした感じになって変な感じがする。実のところ、「張」は広東語では、例えば張國栄(Leslie Cheung/レスリー・チャン)*3のように「チャン」に近く聞こえるのだけど、マンダリンの場合だと、「チャン」よりも「ザン」に近く聞こえるなというのが、私の実感。
*1:http://www.jungchang.net/ See eg. https://en.wikipedia.org/wiki/Jung_Chang
*2:英語話者は精神分析学者のことをジュングと発音することが多い。
*3:See eg. http://www.leslie-cheung.com/ also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060913/1158119880 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101019/1287503295 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110705/1309798635 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180409/1523253208