「龍」は翻訳可能か問題

曽泰元*1「小龍年説説”龍”該怎麽英訳」『東方早報』2013年2月22日


昨年は辰年で今年は蛇年だが、中国文化において「蛇」は「邪悪狠毒」を表し、「祥瑞尊貴的龍」に何とか繋げようと、婉曲的に「小龍」という*2。曽氏によると、数年前に漢語の「龍」をdragonと英訳することは妥当かどうかということが論争になったという。西欧においてdragonは聖ジョージに退治されてしまう悪獣であり、現代英語でも罵倒語として機能している*3。つまり「西方伝統的”dragon”是只蛇蜥一体的神話怪物、千百年来象徴了邪悪恐怖、與華人心中象徴祥瑞、皇権的龍、有着天壌之別」。英語においてdragonのネガティヴさを避け、中国的「龍」の高貴さを表現しようとする試みはけっこう前から行われていたらしい。例えばlungやlong。これは「龍」のマンダリン読みをそのまま羅馬字化したもの。またloong。二重のoは「龍の2つの眼」を表すという。またliong。これは「龍」の閩南語読みで、「獅子」(lion)を連想させようとしている。このうち、ウェード式に由来するlungはウェブスターに収録されてはいるものの、これらのdragon代替物が英語において定着するかどうかは望みが薄いという*4。曽氏はそれよりもdragonのコノーテーションに中国的な「龍」の意味が含まれるようになっていることに注目し、「龍」はdragonでいいのではないかという。必要ならばChineseという形容詞をつけて。
「龍」の起源については、周作人「龍是甚麼」(『大方』1、2011、pp.191-199)*5をマークしておく。さて『日本人の死生観―蛇信仰の視座から』*6の著者である故吉野裕子はどう考えるのだろうか。また澁澤龍彦*7は?

*1:「台湾東呉大学英文系副教授」。

*2:そこまで「邪悪」な蛇が何故十二支に居座っているのかという問題はあるだろう。

*3:その漢語における対応物は「母老虎」。

*4:通常英語でlungといえば肺のことであり、longといえば長いということだろう。

*5:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110428/1304016992

*6:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080419/1208619371 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081113/1226594796

*7:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060502/1146600642 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070416/1176690168 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090314/1237060417 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090717/1247839211 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090804/1249412378 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101210/1292006456 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120207/1328623686