何故「理解」したいか

福田フクスケ「なぜ男は風俗に行くのか。漫画家・鳥飼茜が考える」https://joshi-spa.jp/664379 https://joshi-spa.jp/664379/2


最初にこのインタヴューに言及したとき、「風俗」を利用する「男」の動機についての考察を切り取った*1。このインタヴューの後半ではさらに、何故他人の共感し難い行為を「理解」したいのかという「理解」の動機についての省察が行われている。


鳥飼:風俗にのめり込む男性の中にも、共感できる気持ちを見つけたいと思ったんです。個人的には、自分の彼氏や父親が風俗に通っていたら、正直受け入れられない。でも、自分の本音はひとまず置いといて、一旦そっち側の気持ちに寄り添ってみようって。

――いろんな考えの人に寛容でありたいとか、そういうことですか?

鳥飼:いや、偏見をなくしたいとか、寛容さをアピールしたいとかじゃなくて。私自身は、風俗行く人にはまったく不寛容ですから(笑)。でも、私は漫画を描くことを通じて、“自分が受け入れがたいことの中に、どこまで共感できる部分を見つけられるか”というのを、いつもどこかで試したいんだと思います。たとえば、『先生の白い嘘』に早藤という登場人物が出てくるんですけど。

――早藤は、処女ばかりを狙ってレイプし、自分の婚約者の友だちにも手を出すキャラクターですね。

鳥飼:彼は、私にとって一番イヤだし一番怖い存在なんだけど、そういうヤツの中にも、どこか自分が寄り添える部分が絶対あると思って描いているんですよ。なんでそんなことしたいのか、自分でもよくわかんないんですけど。風俗に通う男性についても、それに近いことをもう少しマイルドにできないかなと思ったんです。

また、


福田フクスケ「風俗に行く男は風俗嬢に共感している!? 漫画家・鳥飼茜が男目線で気づいたこと」https://joshi-spa.jp/664899


これは上のインタヴューの続き。ここからも少し切り抜いておく;


――鳥飼さんはなぜ、許容できないことや、理解できない人の中にも、なんとか共感できる部分を見つけたい、と考えているんでしょうか?

鳥飼:それをしないと、ただ断絶するしかなくなってしまうから。たとえば、たくさん人を殺した人の気持ちはまったくわからないし、私だってわからないと思いたい。でも、そういうことがどうしたら少しでも減らせるかって考えたときに、自分もこういう条件が揃ったら同じ結果を引き起こしてしまうかもしれないなって想像することは、決してムダじゃないというか。

――理解不能なものに対する恐怖を取り除きたい、という気持ちもあるんでしょうか。

鳥飼:ああ、そうですね。たぶん私、めちゃくちゃ怖がりなんですよ。不安や受け入れたくないことがいっぱいあって。怖いから知りたい、知って安心したいという気持ちが強いんでしょうね。

――不安だからこそ知りたい、怖いからこそ理解したい、というのが鳥飼さんの創作のモチベーションなんでしょうか?

鳥飼:自分が理解できなくて不安なものに対して、本人や当事者から直接聞けたら一番早いんだろうけど、本人が本当のことを言ってるかどうかもたいがいアテにならないじゃないですか。だから、いろんな人からいろんなことを聞く中から、自分にとって本当だなと思えるポイントを見つけていって、それを一本の線につなげていく。私は、漫画を描くことでそういう作業をしているのかも。

まあ人間は機械ではないということがある。他人が(もしかしたら自分が)とんでもないことをしでかしたとき、私たちは何考えてやがるんだ? と反応する。しかし、そのとんでもないことが機械や自然現象のせいであるとき、私たちは何考えてやがるんだ? とは思わない。この何考えてやがるんだ? は〈〜するため(in order to)〉という目的に限らない。それ以前に、自分の置かれた状況を何だと思ってるんだいという〈状況の定義(definition of situation)〉に関係している。人間の行為というのはこのように状況の定義や動機(目的)を込みにしたものとして存立しているわけだ。
勿論、こうした「理解」には面倒くさいところもあり、敢えて「理解」しようとはせずに、通俗心理学を援用しつつ、極右だとか極左だとか、男だとか女だとか、韓国人だとか日本人だとか、キモオタだとかヤンキーだとかいうラベルを貼って(タグをつけて)済ますということも可能ではあるけれど。