レヴィ=ストロース sur ナチズム(メモ)

新書498闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)

新書498闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)

渡辺公三『闘うレヴィ=ストロース』第二章「批判的人類学の誕生」では紐育に亡命中のレヴィ=ストロースのナチズムに関する思考が言及されている(p.97ff.)。
先ずSocial Research(Volume 10, 1943)に掲載された、ホピ族*1の首長の自伝的語りであるSimmons Leo, W. (ed.) Sun Chief―The Autobiography of a Hopi Indianの書評;


ドンは語りをしめくくるにあたって、インディアンのなかにはヒトラーが、悪者を罰し正しい者を救いに、ある日、地上に帰ってくるとされるホピの伝説の「選ばれた白い兄弟」だと信じている者がいると語っている。ちょうど二年前に、マルチニックの貧しい黒人たちへのインタヴューでも同じ信仰が記録されている。こうしたものが、全体主義が有色人のもとでおこなった巧みな宣伝活動によってもたらされたものか、白人支配に対する自然な憤りによって説明されるべき、注目すべき解釈の収斂なのか、興味深いものである。(p.97から孫引き)
また、レヴィ=ストロースが1942年に書いたとされるナチス擡頭(=仏蘭西敗北)を巡る覚書。これはカトリック系哲学者ジャック・マリタンのアーカイヴから発見されたという。渡辺氏はW. Stoczkowski Anthropologie redemptrice(Herman, 2008)という本から孫引きしており、以下の引用は曾孫引きになる;

全体主義の運動の歴史的展開は、時間的には二〇年足らず、空間的にはヨーロッパの舞台に縮小されたかたちで、ヨーロッパ自身が一世紀半のあいだ世界全体で演じてきた劇を再演したものである。ヨーロッパは世界を、原材料の供給者と工業製品の消費者に還元しようとした。そしてファシズムは、ヨーロッパが保持しようと欲した工業への独占権を奪取し、ドイツに対置されたヨーロッパを農業に専念させようとした。何倍もの力で凄惨さが増幅される、より狭苦しい劇場で、支配民族(Herrenvolk)は白人種に対して、後者が有色人種に対しておずおずとさせようとしていた役割を演じさせようとした。ドイツは東ヨーロッパで、かつてより大がかりに構築された植民地支配のモデルの夢を実現しようとしたのである。(p.99に引用)
レヴィ=ストロースによれば、ナチズムとはヨーロッパ(白人)がそれまで世界に対して行ってきた帝国主義・殖民地主義をヨーロッパ(白人)自身に適用したものだということになる。だから、レヴィ=ストロースのスタンスは〈善なる民主主義vs.悪なるファシズム〉という図式には収まらないことになる;

諸民族の独立、人民の解放、人種の平等、勝利の報酬として約束されているこれらのことは、現実には勝利のための前提条件なのだ。民主主義勢力は新しい世界の到来のために戦っていると主張することに甘んずるなら致命的な幻想に陥ることになろう。〔……〕なぜなら戦争に勝利するのは民主主義勢力ではなく、新しい社会なのだ。民主主義勢力はその存在そのものにおいて、新しい社会を先取りして出現させる可能性と義務をもっている(後略)(p.100に引用)
ジャック・マリタンを巡っては、


Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/Jacques_Maritain
William Sweet “Jacques Maritain” Stanford Encyclopedia of Philosophy http://plato.stanford.edu/entries/maritain/
Jacques Maritain Center at Notre Dame
http://www2.nd.edu/Departments/Maritain/ndjmc.htm
The Canadian Jacques Maritain Association
http://sites.google.com/site/cjma4acjm/home


また、


Donald DeMarco “The Christian Personalism of Jacques Maritain” http://www.cfpeople.org/Apologetics/page51a054.html


をマークしておく。


ところで、


李銀河*2憤青打老人事件分析」http://blog.sina.com.cn/s/blog_473d53360102dxxc.html


9月に中国大陸で起こった、「憤青」が「紅歌」*3を歌いながら老人をぼこったという事件に関する省察。この中で、李銀河老師は、毛沢東が亡くなって既に久しいのに毛沢東崇拝はけっこう広い社会的基盤を持っているのではないかと推測している。毛沢東によって直接迫害の対象となったのは地主、資本家、知識人、(文革中の)共産党幹部といった「上層」の人々で、その数としては中国の人口の5%に満たない。1960年の大飢饉で3000万人が死んだにも拘わらず、広大な中層・下層の人民は毛沢東に対してそれほど悪感情を抱いていない。さらに、昨今のように官僚の腐敗や貧富格差の拡大に不満が高まってくると、毛沢東時代へのノスタルジーが喚起されてくることになる。
そういえば、蘇聯崩壊後にエリツィンが急激な新自由主義政策を採って、それに反対するデモが起こった。そのデモではスターリンの肖像が掲げられていた。トロツキーでもレーニンでもなくスターリンっていうのはどうよと誰かに訊ねたけれど、大衆っていうのはそういうもんだよという答えが返ってきたということを思い出した。

*1:http://www.hopi-nsn.gov/ See also http://en.wikipedia.org/wiki/Hopi_people

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060310/1141964279 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060316/1142479391 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060429/1146276804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060516/1147751877 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060908/1157716174 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061013/1160766389 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061114/1163521045 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061120/1163987352 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061120/1163987352 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070314/1173841539 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070315/1173922169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070315/1173923865 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080111/1199985959 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080314/1205475516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080520/1211251523 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080818/1219033606 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090514/1242326486 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090525/1243248127 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090712/1247414329 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090713/1247456270 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090807/1249614452 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091130/1259555364 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091208/1260239153 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091214/1260764583 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100205/1265305758 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100317/1268799406 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100925/1285415369 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101220/1292871797 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101223/1293126474 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110526/1306380439 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110530/1306727085 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110609/1307650973 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110630/1309450191 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110701/1309491228 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110707/1310007293 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110716/1310809404 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110807/1312689248 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110901/1314849667

*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110526/1306380439