次は男か

杉田水脈の妄言問題には全く言及していなかったのだ*1

先月の『スポーツ報知』の記事;


乙武氏、杉田水脈議員の「生産性なし」発言に警鐘「次に排除されるのは『私』かもしれない」
2018年7月25日10時45分 スポーツ報知


 作家の乙武洋匡氏(42)*2が24日夜、自身のツイッターを更新。自民党杉田水脈衆院議員が性的少数者(LGBT)について「生産性がない」などと発言し、物議を醸している問題に言及した。

 乙武氏は「『あなたはLGBTなので生産性がありません』『あなたは障害があるので生産性がありません』『あなたは高齢者なので生産性がありません』『あなたは能力が低いので生産性がありません』−国家にとってどれだけ有益かという観点から優劣がつけられる社会になれば、次に排除されるのは『私』かもしれない」とツイート。

 続けて「その優劣を決めるモノサシを政治家が握るならば、私たち国民一人一人は国家に対してどれだけ自分が有益であるかをアピールして、『私たちにこそ税金を使ってください』と他者を蹴落としていかなければならなくなる」とし、「私たちが目指すのは、そんなバトルロワイヤルのような社会なのだろうか」と疑問を投げかけた。
https://www.hochi.co.jp/entertainment/20180725-OHT1T50045.html


乙武さんは生産性あふれてる」ネット指摘に乙武氏反論「どれだけ読解力が欠落しているのか」
2018年7月26日12時4分 スポーツ報知


 作家の乙武洋匡氏(42)が25日夜、自身のツイッターを更新。自民党杉田水脈衆院議員が子供を持たない性的少数者(LGBT)について「生産性がない」などと発言した問題について、自身が「次に排除されるのは『私』かもしれない」とツイートしたことに対するネット上の声に「どれだけ読解力が欠落しているのか」と指摘した。

 乙武氏は24日に「「『あなたはLGBTなので生産性がありません』『あなたは障害があるので生産性がありません』『あなたは高齢者なので生産性がありません』『あなたは能力が低いので生産性がありません』−国家にとってどれだけ有益かという観点から優劣がつけられる社会になれば、次に排除されるのは『私』かもしれない」とツイートした。

 この日は「『私』とわざわざカギカッコをつけたのは、LGBTに限らず、次に国家から『生産性がない』と切り捨てられる可能性は誰にでもあるという意味」と改めて真意を説明。「なのに、文字通りの私=乙武だと受け取って、『乙武さんは生産性に溢れてるから大丈夫ですよw』とかどれだけ読解力が欠落しているのか」とチクリと刺した。乙武氏は2016年9月に離婚した前妻との間に2男1女をもうけている。
https://www.hochi.co.jp/entertainment/20180726-OHT1T50087.html

これを読んで、次に「生産性がない」と指弾されるのは〈男性〉かも知れないなと思った。小田亮レヴィ=ストロース入門』*3で、レヴィ=ストロースの『親族の基本構造』に沿って、何故定住農耕社会では「男性の交換」ではなく「女性の交換」になるのかということが議論されている(pp.114-116)。定住農耕社会になると、土地はたんなる「生産条件」ではなく、持続的な「労働投下」(メンテナンスや余所者からの防衛)を必要とする「生産手段」になる。「生産手段」に対する世代を超えた「労働投下」を行うための「単系出自集団」が成立する。世代を超えた「労働投下」が可能になるには「生産手段」を「相続」する子孫が必要である。そこで、「子どもに稀少性が生じる」。さらに「女性の稀少性」。「集団内で生まれる子どもの期待数は、その集団内部で生殖活動可能な女性の数によって決まるのであり、男性の数によって決まるのではない」。つまり「集団に女性が一人移ってくれば、期待できる子どもの数は増えるが、男性が一人移ってきても期待できる子どもの数はまったく増えない」。このことは、人権概念の外側にある家畜の牛たちの世界を見れば一目瞭然だろう*4。そこでは、雄は一握りのエリート(種牛)がいれば十分で、子も産めずミルクも出ない雄の多くは去勢され・肉になってしまう運命を受け入れなければならない。
レヴィ=ストロース入門 (ちくま新書)

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さて、中国では少子化・高齢化の危機に、政府が一人っ子政策を撤回するなど、焦りまくりなのだけど、これは日本と比べてもさらに深刻だと考えられる。その理由の一つは、ジェンダー・バランスが狂っていること*5。人口増加は「その集団内部で生殖活動可能な女性の数によって決まるのであり、男性の数によって決まるのではない」からだ。ジェンダー・バランスの失衡の効果は、将来的な人工の減少のほかに、恋愛関係や結婚からあぶれた大量の非モテ男の出現があるだろう。その効果は、中国内部だけでなく、日本などの周辺社会にも伝わっている筈だ。さて、日本では逆に男の子より女の子を望む親が多くなっているということを、柏木恵子『子どもという価値』を引きながら示したことがある*6。また、中国や印度におけるジェンダー・バランスの失衡には、古い価値観とともに妊娠初期段階における性別判定技術の発展が関わっているということについては、Mara Hvistendahl Unnatural Selection: Choosing Boys Over Girls, and the Consequences of a World Full of Men*7を見られたい。
子どもという価値―少子化時代の女性の心理 (中公新書)

子どもという価値―少子化時代の女性の心理 (中公新書)

Unnatural Selection: Choosing Boys Over Girls, and the Consequences of a World Full of Men

Unnatural Selection: Choosing Boys Over Girls, and the Consequences of a World Full of Men

杉田問題に戻ると、

江原啓之、「LGBTは生産性がない」発言の杉田議員をバッサリ「無視するべき」
2018年7月25日17時39分 スポーツ報知

 タレントの江原啓之(53)*8が25日放送のTOKYO MX「5時に夢中!」(月〜金曜・後5時)に出演、自民党杉田水脈衆院議員(51)が「LGBTのカップルは子どもを作らない。生産性がないのです」と発言したことに憤慨した。

 杉田議員は月刊誌「新潮45」のインタビューで「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がないのです」などと発言し、SNS上で炎上騒動を起こした。

 これについて江原は「平和を乱す異常者の発言は無視するべきです。かまっちゃいけません、かまってちゃんですから」とピシャリ。さらに「一番怖いのは、だいたいこういう『生産性がない』という発言が出る時代は戦争が始まる時。生産性がないというのは、要するに戦争に行かせる人数が必要だから。生めや増やせやと、お国のためにってなってる。歴史をさかのぼると、もともとこの国は同性愛に寛容な国なのに、こういう発言はマイナスでしかない」とまくし立てた。

 そして再度、「ほっといた方がいい。異常者だから」と吐き捨てた。
https://www.hochi.co.jp/entertainment/20180725-OHT1T50102.html

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180803/1533322417で、立憲民主党 SOGI(性的指向性自認)に関するPT「自民党のLGBTをめぐる発言について」(https://cdp-japan.jp/news/20180726_0765)をマークしているけれど。

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060909/1157773946 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060912/1158074582 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160330/1459343463 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160331/1459390045 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160415/1460685137 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160603/1464884753 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160623/1466692840 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160916/1473989840 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170809/1502291499 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180203/1517673830 )http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180422/1524324795 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180510/1525900096 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180702/1530494257 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180704/1530682338

*3:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070923/1190518210 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091105/1257360030 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120318/1332088792

*4:馬でも山羊でも。

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120501/1335885805 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120704/1341365028 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130615/1371261003 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141217/1418743281 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170816/1502852665

*6:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140711/1405004795

*7:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120501/1335885805 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120704/1341365028 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130615/1371261003 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131004/1380855220 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140711/1405004795 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141219/1418959247

*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070323/1174628115 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070704/1183564169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071031/1193848667 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071230/1198987944 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171104/1509722687 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171219/1513701162