「中国式民主主義」(メモ)

現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ (岩波新書)

現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ (岩波新書)

唐亮『現代中国の政治』*1からメモ。


中国政府は中国式民主主義を主張する際、いまだに社会主義の優越性のレトリックを使っている。ただ、毛沢東時代の挫折もあり、その説得力が低下したのも事実である。それに代わり、中国政府は集団主義などの伝統文化論を用いて中国式民主主義を正当化しようとすることが増えている。その論理によると、国によって、伝統文化や国情は必ずしも同じわけではない。したがって、民主主義もまた多種多様な形式をもつ。欧米型民主主義は多様な民主主義の一形式にすぎず、各国は独自の民主政を追求すべきであり、また、そうする権利があるというものである。(p.146)

中国式民主主義は、文化相対主義*2の論理を採用して、一党支配型の権威主義体制を強引に民主政の多様な形式の一つとして解釈しようとするものである。伝統文化論を用いて政治体制を正当化する「理論武装」は、高揚するナショナリズムと相まって国民の間に受け入れられやすいものであろう。(p.147)
唐氏は、青木保『「日本文化論」の変容』*3で提示された戦後「日本文化論」の「否定的特殊性」「歴史的相対性」「肯定的特殊性」「特殊から普遍へ」という段階的な類型を援用する;

(前略)改革初期の中国は自国の文化に関し、「否定的特殊性」論が強まっていた。しかし、近年、中国は急速な経済発展を逃げる*4中で、国民の多くは徐々に自信を取り戻し、中国の伝統文化と近代化が両立するという主張、あるいは「歴史的相対性」の論調が影響力を強めている。さらに、中国も出る称賛論が示しているように、「肯定的特殊性」の論調も生まれ始めている。
第二次世界大戦以降、とくに冷戦終結後、自由化と民主化は抗しがたい世界潮流である。国内外の民主化の圧力を前に、ほとんどの権威主義体制は自己弁明や自己正当化を強いられている。「自国版」民主主義を主張するのは、決して中国だけでない。たとえば、一九九一年、マハティール首相のマレーシアの発展ビジョンに、「成熟した民主的社会」が含まれていた。しかし、それは、決して個人の自由権の保障を基礎とする「西欧型」民主主義ではなく、合意を重視した共同体志向の「マレーシア型民主主義」であるという(鳥居高編『マハティール政権下のマレーシア』)。(pp.147-148)