- 作者: 竹沢尚一郎
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竹沢尚一郎『社会とは何か』からメモ。
スピノザの『エチカ』から
という一節を引用し(p.22)、「人間身体は本性を異にするきわめて多くの部分から組織されており」ということについて、以下のように述べられている;
我々はより大なる喜びに刺激されるに従ってそれだけ大なる完全性に移行するのである。だからもろもろの物を利用してそれをできる限り楽しむ〔略〕*1ことは賢者にふさわしい。たしかに、ほどよくとられた味のよい食物および飲料によって、さらにまた芳香、緑なす植物の快い美、装飾、音楽、運動競技、演劇、そのほか他人を害することなしに各人の利用しうるこの種の事柄によって、自らを爽快にし元気づけることは、賢者にふさわしいのである。なぜなら、人間身体は本性を異にするきわめて多くの部分から組織されており、そしてそれらの部分は、全身がその本性から生じうる一切に対して等しく有能であるために、したがってまた精神が多くのものを同時に認識するのに等しく有能であるために、種々の新しい栄養をたえず必要とするからである。(岩波文庫版・下、p.58)
最後のは『国家論』(p.27)からの引用。竹沢氏は、「刑罰の威嚇」の必要性に言及するスピノザ(『エチカ』下、p.50)に、「ホッブスの社会契約説の影響」を見出しているのだが(p.25)、『国家論』で述べられている「親密関係」は各人の力(strength)の「リバイアサン」による没収としてのホッブス的「社会契約」よりも、アレントが『革命について』でホッブス流の「人民とその支配者の間(between the people and its ruler)」で行われる「社会契約」に対置している「個々の人々の間(between individual persons)」で行われる「社会契約」に近いといえるだろう(p.169ff.)*2。
スピノザには、個人が一個の身体のなかに閉じ込められているという発想は存在しない。人間の身体にしても精神にしても、多くの異なる個体から構成される一全体であり、それぞれの個体は外部からさまざまな仕方で刺激されつつも、全体として一貫した本性を保つことができるとかれは考えるのである。かくしてスピノザには、デカルト流の心身二元論も存在しなければ、主体と客体の二元論も存在しない。すべてが連続的で、たがいに影響しあう流動的かつ包括的な世界。それがかれのイメージする世界なのである。
もし人間が周囲の物から切り離されておらず、しかもたがいに影響しあう多くの個体から構成されているとすれば、なおのこと人間は他の人間から切り離されていないであろう。スピノザにとっては、人間が社会を組み立てるのは自然なことであり、しかもそれを通じて、各人はより大なる喜びを実現できるとする。「もし二人の人間が一致して力をあわせるなら、二人はともども、その単独である場合よりも一層多くをなしえ、したがってまたともども一層多くの権利を自然に対して持つ。そしてますます多くの人々がこういう仕方で親密関係を結ぶに従って、ますます多くの権利をすべての人々はともども持つようになる」。(p.23)
- 作者: スピノザ,畠中尚志
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*1:竹沢氏による省略。
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110918/1316366970