「身体社会学」(メモ)

コロキウム〈第2号〉―現代社会学理論・新地平

コロキウム〈第2号〉―現代社会学理論・新地平

速水奈名子「身体社会学とゴッフマン理論」『コロキウム』2, pp.80-102


この論文の「目的は、E.ゴッフマンの相互行為論を、身体社会学という視座から分析することを通じて、ゴッフマン理論の意義を再検討していくこと」(p.80)だが、何故「身体社会学」が「イギリスを拠点に80年代ごろから発展してきた」(ibid.)について、速水さんがブライアン・ターナー*1から直接聞いたところによると、


第一に、イギリスの大学では社会学の制度化が大幅に遅れ、独自の体系的な社会学理論が提出されなかったことから、ヨーロッパの哲学理論(フーコーメルロ=ポンティなど)やアメリカのプラグマティズムの思想を積極的に社会学理論のなかに取り入れる動きがあったため。第二に、60年代を境にイギリス国にあは社会統合の危機に直面し、その結果、身体にかかわる新しい研究領域(人種、ジェンダー市民運動など)の開発が進行したため。そして、最後に、アメリカでは、メディカル・スクールが医療倫理について考察する機関として機能しているが、イギリスにはそのような基盤がなく、社会学がその領域を考察対象としているため。(註1、p.98)
ところで、1980年代における社会学的身体論の嚆矢といえば、ターナーThe Body and Society*2とともに、ジョン・オニールのFive Bodiesを挙げることができ、そのどちらも速水さんによって参照されているのだが、オニールはカナダである。「身体社会学」におけるカナダと英国との関係は?
The Body and Society: Explorations in Social Theory

The Body and Society: Explorations in Social Theory

Five Bodies: The Human Shape of Modern Society

Five Bodies: The Human Shape of Modern Society

また、ターナーの”Body and Cultural Sociology”(CDAMS[COE at Kobe University] Discussion Paper, 2004)によると、「身体社会学」の基本的「観点」は、


1)「社会構築的身体」
2)「記号論的身体」
3)「現象学的身体」
4)「身体技法」


であり(p.82)、さらに1と2は「表象的身体」、3と4は「実践的身体」と括ることができる(p.83)。「現象学的身体」について;


現象学的観点から浮上した、生きられた身体とは、デカルト的コギトによってではなく、身体性の地平へと溶融された感性として、主体を捉えなおす試みのもと提唱された概念である(Merleau-Ponty [1962]*3)。ここでは主に、主観の側からみた身体解釈が考察対象とされる。そのため、この観点は行動主義批判や、医療社会学の分析にとって取りわけ重要であるということができる。(p.82)
ターナーThe Body and Societyもそうであったが、

(前略)身体の理論家の初期段階においては、社会構築的観点を採用すること、すなわち身体を社会的表象物として分析する立場が主流であったということができるであろう。しかし、このような身体を社会構造が体現する受け身的な場として捉える立場に批判を下す立場が浮上することになった(略)。
現象学的な身体観の重要性を主張する理論家たちは、メルロ=ポンティの理論――伝統的な主客二元論を乗り越え、生きられた経験という観点から社会を分析する立場――に依拠しつつ、社会学に定着しているデカルト心身二元論脱構築し、身体を主体形成の要因として捉える立場を堅持している。彼らは、知覚を「身体的意識」と捉え、人びとの日常経験や自己が、いかに生きられた身体との関わりにおいて組織化されるのかといった問題を理解することになったということができる。すなわち、これまで主に残余概念としてしか扱われてこなかった身体に着目し、それを社会構造が体現する場として社会学理論に取り入れる動きがまず起こり、次にその反動として、身体を生活世界構成の要因として捉える現象学的な立場から、社会学理論を再構築する動きが浮上してきたのである。(p.83)
現象学的な身体観」として挙げられているのは、オニールのFive Bodiesのほか、


Scott, S. & Morgan, D. Body Matters: Essays on the Sociology of the Body, Falmer Press, 1993
Williams, S. & Bendelow, G. The Lived Body: Sociological Themes, Embodied Issues, Routledge, 1998
Crossley, N. “Body Techniques, agency and Intercorporeality: On Goffman’s Relation in PublicSociology 29-1, 1995

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090401/1238564547

*2:この本の和訳本は第2版を底本としているが、私が読んだのは初版。

*3:『知覚の現象学』。ここで指示されているのは、何故か仏蘭西語の原書でも和訳本でもなく、英訳本。

知覚の現象学 1

知覚の現象学 1

知覚の現象学 2

知覚の現象学 2