栗原俊雄*1「国家観や戦争観 克明に」『毎日新聞』2022年3月13日
「戦後日本の社会に、天皇制がどう着地してゆくかの記録という意味で、非常に大きい資料的価値があります」。編集委員の1人、古川隆久・日本大教授(日本近現代史)はそう話す。田島が昭和天皇との問答を手帳やノートに記録しておいたもの。49年2月3日から[宮内庁長官を]退任する53年12月16日まで全622回、100万字以上に及ぶ。
天皇は多くの政治的な発言をしていた。国政の最高責任者から「象徴」へと地位は大きく変化したが天皇自身は「国家元首」との自覚を持ち続けていたことがわかる。
また天皇の国家観や国民観、戦争観も克明だ。皇族や戦前戦中の政治家の人物評も赤裸々に書かれている。研究者のみならず、近現代史に関心のある読者も引き込むような内容だ。歴史学た政治学、皇室社会学などの幅広い共同研究も期待できる。
田島は東京帝国大卒業の財界人。48年に宮内府長官となり、翌年初代宮内庁長官となった。皇室管理部門の責任者としては「史上初の民間人出身者」だ。皇室行政の民主化を目指していた芦田均首相の強い意向があった。
天皇は公私ともさまざまなことを話したが、田島は聞き置くだけではなく、発言をたしなめることもあった。(後略)