「あえて小説のスタイル」

栗原俊雄*1「人間の強さに突き動かされ」『毎日新聞』2020年5月23日


石井光太*2『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』を巡って。


赤ちゃんが生まれる。母親はさまざまな理由で育てられない。取り上げた産婦人科医が赤ちゃんを他人に託す――。1970年代、違法のあっせんを行い、「特別養子縁組制度」の実現にこぎつけた宮城県石巻市の医師・菊田昇*3の生涯を追った。ノンフィクションの妙手が、あえて小説のスタイルを選んだ。

(前略)親による子どもの虐待事件を取材する中で「子どもたちが特別養子縁組で救われている」こと、その制度のキーマンだった菊田が石巻遊郭で育ったことを知った。「スーパーマンがスーパーなことをやったのではない。遊郭で生まれ育った人間が何を背負い法律にあらがったのか」。書き手としてのエネルギーに火が付いた。
何故「小説」なのか――「菊田の幼少時代の記録はほとんどありません」。