「改革」と「私物化」

栗原俊雄*1「国公立大の「私物化」深刻に」『毎日新聞』2021年11月14日


「学長らの少数の大学執行部の権限を強化し、そのリーダーシップによって「戦略的な経営」を実現し、社会のニーズに応える」ことを謳った「政府主導による国公立大学の「ガバナンス改革」」は「学長を中心とした大学の執行部と国、産業界・経済界」、「産学官の複合体」による大学の「私物化」を帰結している。教育学者、駒込武氏*2へのインタヴュー。


まず2004年の国立大学法人化です。国立大学法人運営費交付金が削減されるなど財政面で国の締め付けが強まり、人員削減などにつながっています。また法人化以前、国立大の学長は教職員の投票による結果に基づいて、学部長など教授会の代表によって構成される評議会が指名していました。1919年に東京帝国大学で導入されたもので、戦後の49年に制定された教育公務員特例法によって補強されました。大学自治の象徴ともいえる慣行でした。ところが、法人化によって教職員が非公務員になったため、同法は各大学の判断で適用しなくてもいいことになりました。評議会は教育研究評議会と名前を変えて権限を縮小される一方、新たに経営協議会が設置されました。

私物化の次の段階、14年の国立大学法人法と学校教育法の改定で決定的に変わりました。法人化後、教育研究評議会と経営協議会から選ばれた「学長選考会議」が、教職員による投票(意向投票)に基づいて学長を選考してきました。しかし法改定に伴う施行通知により「学長選考会議」が「主体的に」決めることが推奨され、意向投票を無視してもよいことになりました*3。選考会議は学長が選んだ委員から構成され、学長地震が含まれることすらありました。
――「自分の後任は自分」と決めてしまう⋯⋯。*4
それが可能になっています。筑波大や大分大のように任期制限が撤廃され、生きている限り学長でいることが可能というケースもあります。三つ目の段階は21年で、菅義偉内閣が学長選考会議や監事による学長監視機能を強化する国立大学法人法改正案を閣議決定し、同法は5月に成立しました。いよいよ少数の人物に権限を集中するもので、学長が選考会議の委員や監事と気脈を通じて暴走したら歯止めが利かなくなります。
さらに問題なのは、暴走している学長が「自分は大学のために正しいことをやっている」と思い込むことです。国の意向に応じることで大学は予算増などさまざまな恩恵があり、応じないとペナルティーが科される恐れがありますから。

一部の教員の間では危機感が共有されてきましたが、学生との対話が十分ではありませんでした。「学長がだれになっても、自分たちには関係ない」と、なかなか関心をもってもらえない。しかし、権限が強化された大学執行部の暴走による最大の被害者は学生です。図書費が削られたり、学長肝いりの学部に手厚く予算配分される一方、他の学部の定員が減らされたり。大学の学生に対する管理、締め付けも強化されています。