或る戦後

栗原俊雄*1「「表象と実像」浮き彫りに」『毎日新聞』2023年1月21日


『残留兵士の群像』の著者、林英一氏へのインタヴュー記事。


『残留日本への真実』『皇軍兵士とインドネシア独立戦争』など東南アジア、ことにインドネシアを舞台に研究と発表を続けている。きっかけは、入学した慶応大での語学選択だった。卒業するには第二外国語が必須で「比較的学びやすそうと思ってインドネシア語を選びました」。「海外に行ったことがなかったので、行ってみたい」という気持ちもあった。この選択が、学者人生を方向付けた。

2004年にジャワ島に渡り、小野盛さん(当時85歳)と出会った。第二次世界大戦下、「大日本帝国の軍人」として戦い、敗戦後も現地にとどまった「残留兵士」だ。06年までにインドネシアで7人に聞き取りをした。日本に帰国した元兵士にも。それぞれの証言を「文献実証主義の立場から」、陣中日誌や回想録などと突き合わせる地道な研究を15年以上続けてきた。
その成果を土台に、本書ではドキュメンタリーなど映像36作を分析。残留兵士が日本社会でどう受け止められてきたのか、受け止め方がどう変化したのか、なぜ繰り返し取り上げられるのか……。歴史学社会学、メディア史研究の境界を越えて「表象と実像のせめぎ合い」に」迫る。