浅い夢など

清繭子「 「消えちゃいたいと思ったことも」38歳独身の眠れない夜――。ながしまひろみさん「わたしの夢が覚めるまで」インタビュー」https://news.yahoo.co.jp/articles/70b8b2f0e649145e04880cea8f64413b0eba6de8


漫画『わたしの夢が覚めるまで』を上梓した ながしまひろみさん*1へのインタヴュー記事。
『わたしの夢が覚めるまで』は38歳の独身女性「その」が「不眠症になり、浅い眠りのなかで見た夢を振り返るという物語」。


もともとは子どもを主人公にした明るいお話にするつもりだったのですが、ちょうどコロナ禍になり、気軽に外出できなくなり、この先どうなるんだろうと考えているうちに、眠れなくなって……。当時、私はそのと同じ38歳だったのですが、まわりの同年代もパートナーや家族がいる・いない問わず辛そうにしていて。今のこの年代の抱えているものを等身大で描いてみようと思いました。

 その頃見た夢で印象的なものがあって。外出自粛で会えなくなった人と入れ歯を外してファーストフードを食べるという夢なんです。腹を割って話したいと思っていたひとと会えて、親しげに話せて、わーよかったな! と思って起きたら夢で……。さみしい夢ですよね(笑)。少しアレンジして漫画にも登場させました。

「38歳」とは?

結婚するかどうか、子どもを産むかどうか、いろいろ決めなきゃいけない時期ですよね。女性だと妊娠のタイムリミットもあって、悩まざるを得ない。仕事や親のこともそうです。私のまわりでも仕事の転機を迎えて地方に移住したり、実家にUターンする人が結構いました。人生の岐路となる年代だと思います。
自死」を描くことについて;

――この作品では自死が描かれます。コロナ禍で、現実世界でもなぜあの人が……というような自死のニュースが相次ぎました。


 じつは眠れなくなったとき、あれこれ考えすぎてほんとにしんどくて、消えちゃいたいと思ったことがありました。そのとさきちゃん*2を自分の分身として描き、この不安の先を見つけてほしいと、そんな動機から入った物語だったんです。漫画をダ・ヴィンチWebで連載している途中で、芸能人の方のニュースなども飛び込んできて、編集さんから自死を描くのはやめた方がいいのでは、という意見もいただいたのですが、やっぱり自分としては最初の動機があったから。死なないためにはどう生きていけばいいのかを、そのと一緒に考える話にしたかった。それで、描くことに決めたんです。

 最初は編集さんからの話もあり自死の理由もちゃんと描かないとだめなんじゃないかと思って。でも、「この人はなぜ死んだのか」を考えているとどんどん自分が疲弊していきました。メンタルクリニックの先生に取材した時に、「亡くなった気持ちは本人にしかわからないから、あんまり思い詰めちゃダメ」とアドバイスをいただいて、やっとわからないままでいいんだと思えて、具体的なことは描かないことにしました」。

――遺された側の悲しみや寂しさ、怒り、後悔なども描かれます。


 じつは私の周りに、自死を選んだ人、遺された人の両方がいます。
 自死を選んだ人は、朗らかな人だった記憶しかなくて、本当に理由がわからないんです。それでも遺された人はあれこれ理由を考えて、何かしていれば変わったんじゃないかと自分を責めてしまう。その重荷を背負ってほしくないなと思いながら物語を進めていきました。
 その一つが、ある人物のセリフ「最後にちょっと間違えただけで全部ダメになっちゃうなんてやりきれないと思わない?」です。死んだら全部終わりなんですけど、それでも、終わりじゃないところもあるよねって。遺された人が、死んだ人を大切に思いながら生きていてもいいよねっていう思いを込めました。


――この漫画を描くことで、ながしまさんが38歳で抱えた不安に、答えは見つかりましたか。


 細かいところは今もまだ不安だらけなんですが、そのやさきちゃんを描くうちに、ひとりでもひとりでなくとも、誰かと関わり合いながら生きていくことがやっぱり大切なんだと感じました。べつにそれが恋愛や結婚じゃなくてもいいと思うんです。友達でも、社会の中の誰かでもいい。話したり、笑ったり、その人のために行動したり、ときには頼ったり。
 これは大好きな映画「永い言い訳」(西川美和監督/アスミック・エース)の受け売りなんですけど、「人生は他者だ」っていうセリフがあって。自分のことを知るには自分だけでは足りなくて、他者がいて初めて成り立つのかなと思います。自分のことだけをずっと考えて生きていくのはしんどいですもんね。