躾の問題?

1970年代に大貫妙子さんがスパゲティをずるずると音を出して食べていたら坂本龍一に注意されたというエピソードを知って*1、時代の流れのようなものを感じたのだった。1970年代には大貫さんでさえずるずると啜っていたのか! この感慨は、21世紀或いは令和の時代にはスパゲティをずるずる啜る奴はいないよねということを前提としていた。しかし――


安東徳子「「コース料理を初めて食べた」というカップルが9割…婚礼業界で常識化する「残酷すぎる経験格差」の実態」https://president.jp/articles/-/69904


曰く、


昨年、あるホテルのブライダルフェアで行われたフレンチの試食会でのことです。この日は8組のカップルが参加していました。

コース料理1品目のオードブルに続き、2品目のスープがテーブルに置かれました。白地にゴールドの模様で縁取られたボーンチャイナのスープ皿は、古くから多くのホテルやレストランで愛用されてきたテーブルウエアブランドのもの。注がれているのは透き通った琥珀色のコンソメスープ。王室御用達といわれるフランスのカトラリーブランド・クリストフルのシルバーウエアも並んでいます。

「当店では牛スネ肉や玉ねぎなどの厳選された材料を時間をかけてじっくり煮込み、丁寧にアクを取っていきます」。シェフの説明が終わり、カップルたちがスプーンを手に取り始めたのと同じタイミングでした。

部屋の中ほどの席に座っていたカップルの新郎が、おもむろに両手でスープ皿を持ち上げ、直接口をつけてズズっと音を立てて、スープを飲み始めたのです。周りを気にすることもなく、ゆっくりとスープを飲む干す姿はとても堂々としていました。


さらにびっくりしたのは、その後でした。向かい合って座っていた新婦も同じようにスープ皿を持ち上げて、口をつけて飲み始めたのです。まるで新郎を見て「そうやって飲めばいいのね」と納得したかのような表情でした。

2人は20代後半ぐらい。新郎はチェックのネルシャツにデニム、リュックというラフな服装でしたが、新婦はカジュアルとはいえキレイ目なパステルカラーのブラウスにフレアスカートというきちんと感のある服装だったので、余計に驚きました。

私は「見てはいけないものを見てしまった……」というような気持ちでしたが、衝撃的だったのはまわりのカップルは驚いている様子ではなかったことです。その後、ホテルのスタッフにも2人の話をしたのですが、あまり気にかけていないことにさらに驚きました。


今、披露宴を行うのは30代から40代前半のカップルが中心です。それ以上の40代後半以降の世代はテーブルマナーに自信がなければ、「恥をかきたくない」と知識を得ようとする方が多かったように思います。そうしたマナーを面倒だと感じる一方で、「非日常」「特別感」を楽しんでいる面もあったはずです。

しかし、最近はテーブルマナーを敬遠しているというより、そもそもテーブルマナーに関心がない、もしくはテーブルマナーの存在すら知らないのではないかと思うような方が増えています。


広がっているのは、経済格差が生む、かつては当たり前だったことをできなくなっている「経験の格差」だと私は考えています。

2015年頃からでしょうか、ブライダルの試食会に参加したカップルから「コース料理を初めて食べました」という感想を聞くことが増えました。先述したCランクの施設では7〜9割近くに上り、Bランクの誰もが名前を知っているような全国展開のホテルでさえ4割近くいます。

結婚するカップルの親はバブルを経験している世代が中心です。それでいて子ども世代の経験が少ない理由の1つは、ファミレスをはじめ低価格の外食が増えたことでしょう。また、ワリカンが当たり前の世代なので、バブル期のように「デートで高級レストラン」「クリスマスはシティホテルに宿泊」というような“ご馳走文化”がなくなっていることも関係あると考えています。

ただ、「テーブルマナーの存在すら知らない」というのと「低価格の外食」は関係あるの? だって、高級レストランではスープを音立てて啜ってはいけないけれど、ファミレス或いはサイゼリヤならかまわないという話ではないだろう。煩雑なマナーはともかくとして、スープやパスタは音を立てて啜らない、「ガチャガチャと音を立てて食器を扱」わないといった基本的なマナーというのは親の躾の問題ではないかと思った。自分の息子には、スープやパスタは音を立てないと1度か2度言ったけれど、それ以降、基本的には守っている。「テーブルマナーの存在すら知らない」という人はどのような躾を受けたのか? しかし、私自身のことを考ええると、そういう「マナー」を親から教えてもらったという記憶はない。私の親は、平気でスープを音を立てて飲むような人だった。だったら、どうやって身に着けたのか?