それ以前の?

小関隆『イギリス1960年代』を読み始めているのだけど、1950年代の英国に紛れ込んだとしたら、当時の、(マッカーシズム下の)米国、日本、仏蘭西といった(一応西側の)他の社会よりも、ああ退屈な場所に来ちゃったな、と思うかもしれない。
英国において、ビートルズ以前にどんなスターがいたのか? どんなヒット曲があったのか? そういうことを知っている人はそういないんじゃないだろうか? 
1960年代以降の対抗文化或いはポップ・カルチャーというのは、実は(例えばクラシック音楽のような)ハイ・カルチャーと直接対決していたわけではない。勿論、チャック・ベリービートルズは「ベートーヴェン打倒!(Roll over Beethoven!)」と歌っていたわけだけど*1。ハイ・カルチャー以前に、大衆文化のエスタブリッシュメントと対決することによって、エンタメ産業を変えていった。或いは、エンタメ産業に取り込まれていったといえるかも知れない。日本だったら歌謡曲とか松竹大船とか。米国だったら、ハリウッドとかブロードウェイとか。英国の場合、そのような大衆文化エスタブリッシュメントとの対決が稀薄だったような気がする。新しい文化を扱き下ろす文化的保守の側も、ロックやミニ・スカートに対抗して持ち出してくるのは、古き良き大衆文化ではなく、ハイ・カルチャーなのだった。その多くは非英国的なもの。まあシェイクスピアは国産だけど、何せ数百年前のものだ。
それで、そもそも英国では独自の近代的大衆文化が殆ど確立されていなかったのではないだろうかと思った*2。とすれば、ビートルズ以前のスターやヒット曲など、みんな知らなくても当然といえば当然だともいえる。
話を戻すと、1950年代の英国というと、アガサ・クリスティなどの探偵小説とハマー社のホラー映画*3くらいしか娯しみはなく、クールな音楽もファッションもない退屈な社会を想像してしまうのだが、果たしてこれは妥当なのだろうか。
勿論、現在の英国がハイ・カルチャーにしてもポップ・カルチャーにしてもファッションにしても、世界に冠たる文化大国であることは言うまでもない。その意味で、1960年代凄ぇ! Swinging London凄ぇ! という話になっていくのだが。

*1:See https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141024/1414174357

*2:ハイ・カルチャーの場合でも、仏独米と比べて、見劣りしたのではないか?

*3:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100418/1271571481 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160702/1467420799