妊娠する胎児

五箇公一*1「母のおなかで育つダニ」『毎日新聞』2021年10月28日


「母親の体から妊娠した状態で子供が生まれるダニ」である「シラミダニ」*2の話。


(前略)ガの幼虫の体表にとりつきその体液を吸う寄生性のダニで、成虫の雌の体内で卵がかえって、子ダニらが成長する。そして成虫になった子供らは、そのまま母親の胎内で交尾を済ませて、なんと子供の雌は受精が完了した状態で母親の体内から出てくるのである。外界にでた「娘」らは、すぐにガの幼虫に寄生して、母親と同様に自らの体内で子供を育てる。
しかし、同じ遺伝子を持つ子供同士で交尾をするという繁殖様式を繰り返すことは、いずれ遺伝的な劣化が生じて、子供たちの生存率が低下してしまう恐れがある。
そこはよくできていて、母親の体が子供らの成長に耐え切れなくなって破裂することがある。すると未交尾のまま子供らは外界に放り出されることになる。同じタイミングで別の母親の体が破裂すれば、異なる親から生まれた未交尾の子供同士が出会って、交尾をするチャンスが生まれる。こうして、たまに異なる家系間で交尾が成立することで遺伝子が交換され、多様性が維持されていると考えられる。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/01/30/084609 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/02/26/123225

*2:See eg. 名古屋市健康福祉局衛生研究所生活環境部「シラミダニについて」https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000006118.html 株式会社アイリス「刺咬されると皮膚炎を起こすシラミダニ」http://www.pco-iris.co.jp/hiroba/?p=283 https://en.wikipedia.org/wiki/Pyemotes_tritici