「新種」と「絶滅」

五箇公一*1「新種の発見と絶滅の危機」『毎日新聞』2021年2月25日


最近「新種動物」の「発見」が相次いでいる。マダガスカルにおける「世界最初の爬虫類」とされる「新種のカメレオン」。また、駿河湾の「ヨコヅナイワシ*2。2019年に米国フロリダ州の海岸で座礁した鯨も新種だった。
こうした「発見」は手放しで喜ぶべきことでもないようだ。「新種」の発見は絶滅危惧種の発見でもある。マダガスカルの小さなカメレオンも雄雌それぞれ1匹ずつしか生存が確認されていない。また、フロリダの新種鯨の生存個体数は100頭未満と推測されている。


文明と技術の発達によって高山の頂上、ジャングルの奥地、深海の奥底まで人間の活動域が広がり、見たこともない生物種の発見につながっている。同時にそうした新種は、見つかった段階で既に人間活動による環境変化の影響を受けて、絶滅の危機に立たされていることも我々は知ることになる。
人間に発見されることもなく姿を消している種も無数に存在するのであろう。知らず知らずに種が消えて、生物多様性を構成する部品が欠失していく。膨大な種で構成される生態系において、1種や2種滅んだところで大勢に影響しないだろうと、楽観論に走るのは簡単だ。でも、人間の身体でも歯の1本が抜けたところで、すぐ死にいたリスクはなくとも、かみ合いの悪さが長い時間をかけて消化器系、循環器系、神経系へと悪影響をもたらし、最終的に重大な疾患につながることだってある。