飛蝗の来日

五箇公一「バッタ、海を渡る」『毎日新聞』2021年1月28日


昨年、新型コロナウィルスと並んで猛威を振るったのは大発生した「サバクトビバッタ」だった。この群れは、東アフリカから中東、さらには印度亜大陸まで広がった。しかし、流石の飛蝗もヒマラヤ山脈を越えて中国に侵出することはできず、サバクトビバッタの大発生は終息してしまった。


また、サバクトビバッタの飛翔能力から考えて、日本本土への上陸はまずあり得ないとされるが、国際物流のネットワークが張り巡らされた現代においては、人為的にこのバッタが持ち込まれる可能性は必ずしも否定できるものではない。
実際にこの1月に入ってから、相次いで外来バッタ発見のニュースが国内に流れた。まず北海道小樽市で、ロシア、中国、朝鮮半島などに生息する「ツヤムネクラズミウマ」というカマドウマ(バッタ目)が生息していることが確認されたという報告があり、続いて神戸市で、東南アジアに生息するバッタ科ツチイナゴ亜科のバッタ(学名Chondracris rosea)が捕獲されたという報告があった。いずれの種も海外からの貨物を輸送する船舶によって運ばれてきたものと考えられ、今後、国内における定着・分布状況を詳細に調べる必要がある。
こうしたケースを考えれば、サバクトビバッタが日本に運ばれてくることだっていつか起こるかもしれない。思えば、中国・武漢で感染が始まった新型コロナウイルスもわずか2カ月ほどで全世界に広がってしまった。グローバル経済によって世界が一塊となった現在は、どんな生物が運ばれてきてもおかしくない時代だと言えるであろう。
因みに、「カマドウマ」の別名は「便所コオロギ」。