「13歳」の「職業観」など

承前*1

小田嶋隆「定年後、何歳まで働けばいいか考えてみた」『青春と読書』(集英社)519、pp.27-32、2019


21世紀に入って日本人の「職業観」が大きく変容したのと略同時期に上梓され・ベストセラーになったのは、村上龍*2の『13歳のハローワーク』だった。


これは、ひとことで表現すれば「職種」(仕事の内容)に焦点を絞って、世の中にある様々な職業のあり方と人々の働きぶりを、子供たちの目標に合わせて開設した百科全書的な書物ということになるのだが、おどろくべきことに、この本が列挙している500種類以上の「職業」の中には「会社員」という分類項目が設けられていない。つまり、『13歳⋯』(略)の世界では「どんな会社に勤めているのか」ということは、完全に捨象されている。彼らはただただ「どんな作業に従事しているのか」「何を制作しているのか」だけを問題にしているのである。
これは、かなり思いがけない職業観だ。というのも、昭和の日本人の一般的な「職業」への視線は、「どんな仕事をしているのか」よりは、もっぱら「どういう知名度・規模・ランクの会社に勤めているのか」「どんな役職についているのか」に注目する一種の格付け作業だったからだ。
「C君のパパは、ミツビシなんとかの課長さんなんだって」
「へー、すごいわねぇ」
と、昭和の日本人は「ブランド」や「肩書」を知りたがった。そして、業務内容や専門性には無頓着だった。(p.29)
まあ、こういう心性は、大学に関しては、さらに顕著だった。どんな勉強や研究かということよりも、「どういう知名度・規模・ランクの」大学なのかということの方が「注目」されていた。1970年代から80年代にかけて、例えば、早稲田の文系の学部、例えば商学部、法学部、政治経済学部、文学部を片っ端から受験して、引っかかったところに入るというのは、けっこう普通の受験スタイルだった。その人の偏差値に応じて、例えば明治の文系学部を片っ端から受ける、東洋の文系学部を片っ端から受けるということもあった。現在の視点からすれば奇異に思うかも知れないけれど、この子はいったい何を学びたいの? という突っ込みは殆どなかった。寧ろ効率的で賢い受験の仕方と言われていたと思う。何しろ、目標は学問的知識ではなく或る「知名度・規模・ランクの」大学に属しているのかというステータスだったわけだ。因みに、こうした受験法が廃れたのは、意識の変化とかよりも、大学の受験料が上昇して、受験生(の親)の負担が大きくなったからでは?

*1:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/06/09/111542

*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050630 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060521/1148175252 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061008/1160276835 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070120/1169274863 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070207/1170842753 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070904/1188883198 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080724/1216900400 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090111/1231603370 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090816/1250443444 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090827/1251405021 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090911/1252642373 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091001/1254415874 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091106/1257474523 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100304/1267675626 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100313/1268459583 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101010/1286679169 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110104/1294114040 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131011/1381504737 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131103/1383409222 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131112/1384222612 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140802/1406940639 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160328/1459129343 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161222/1482381220 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170127/1485512464 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171016/1508162794 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180708/1531021077 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180713/1531447553 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/05/08/234216 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/06/26/230807 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/08/005048 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/01/22/111158