『ABCの本』の話など

承前*1

高橋めい「安野光雅さん インタビュー」『Japanese Children's Books 日本語版 』2004年冬号 http://www.yamaneko.org/mgzn/eng/jcb_j0104.htm


2004年にリリースされたインタヴュー。
初期の代表作のひとつ、『ABCの本』について;


――この『ABCの本――へそまがりのアルファベット』は国内のみならず海外でも数々の賞を受賞するという高い評価を得ましたが、最初から海外での出版は決まっていたのでしょうか?


「ABC」だからといって、最初から海外に出そうと思っていたわけではありませんが、日本以外の人にも読んでもらえるものにしようという考えはありましたね。たとえばアルファベットのAをローマ字で「Amedama」と書いて飴の絵をつけるというわけにいかないでしょう。どの単語を選ぶかについては、調布のアメリカン・スクールの先生たちや米英の編集者に相談しました。たとえば、私が単語選びに凝って、Hのところに "Hag" を使おうとお婆さんの魔女を描いた時の話。彼らからは「"Hag" は、醜いお婆さんというイメージが強く、魔女という意味で使われることはあまりない。それに魔女を意味する "Witch" にしても、この絵のように醜い魔女だけとは限らない。若い美人の魔女もいる」とアドバイスをもらいました。このように、英語圏の人のイメージと違っていたので、別の候補を選んで描いたというようなことがたくさんありましたね。絵を仕上げる苦労話だけで1冊の本が書けるほどでした。
 これだけ苦心した甲斐があり、「ローマ時代以来歴史あるABCの文字を、このように立体的に描いた人は、今までいなかった」と認知してくれた海外の方がいて、どんな褒め言葉よりもうれしかったです。つまり、アルファベットをだまし絵の立体で表したことが評価されたんです。オリジナリティーという意味で「今までにない」と言われて感無量でしたね。

また、エリック・カール*2も参加した『まるいちきゅうのまるいちにち』を巡って;

――次に、世界の著名な絵本作家が8人も参加されている『まるいちきゅうのまるいちにち』についてのエピソードをおうかがいしたいです。どうやって8人の方々が選ばれたのでしょう? また、どんなきっかけで出版されたのでしょうか? 


 この絵本は、私が童話屋の田中さんと話しているうちに出版が決まったものです。8人の作家は、米英の編集者に相談して紹介してもらったり、自分の知り合いにお願いしたりしました。もともとイスタンブールのウスクダラで、世界最高の夕日を見た時の感動から生まれた本です。本当に素晴らしい最高の夕日だったけれど、今沈んだ夕日は他の国から見れば朝日なのだと思ったら、愕然としてしまってね。つまり、戦場になっている国に沈みつつある太陽が、同時に平和な国に昇っているというのが、私にはとてもショッキングだった。

まど・みちお*3との繋がり;

――まど・みちおさんの詩に美智子様の英訳がついた『どうぶつたち』、『ふしぎなポケット』では、挿絵を描かれていますね。まどさんと、安野さんの奥様がいとこ同士だったと聞いたことがあるのですが……。
  

 いとこ同士だったことは偶然ですが、お互いに同じ世界にいるのだから、いつか一緒にやりたいねと話していたんです。確かに思えば、不思議な縁です。詩に挿絵を描くのは難しいですね。たとえば「ぞうさん ぞうさん おはなが ながいのね」に対して、単に鼻の長い象を描けばいいというものでもないですからね。詩の挿絵が説明的では、センスがないことになると思うのです。

「子ども」か「大人」か問題;

――絵本を作られる時に、子どもという存在を意識していらっしゃるのでしょうか?
 

 私は、子ども向けも大人向けも区別していません。子どもの気に入るように描くというより、自分の気に入るように描いています。横道にそれますが、私にとって、絵を描くというのは仕事です。あるシンポジウムで「なぜ描くか」ときかれた時、「将来を担う日本の子どもたちのために描く」と答えた方が聞き手にうけたかもしれませんが、私は「絵を描くのが仕事ですから。仕事にしたのは好きだから」と答えたんです。ミヒャエル・エンデさんも、「私も安野さんと同じだ」と答えていたし、ターシャ・テューダーさんは、「仕事をして、たくさん球根を買いたい」と言っていました。

ABCの本 (安野光雅の絵本)

ABCの本 (安野光雅の絵本)

まるいちきゅうのまるいちにち―All in a day

まるいちきゅうのまるいちにち―All in a day

  • 発売日: 1986/01/01
  • メディア: 大型本
See also


安藤健二安野光雅さん死去。「旅の絵本」「ABCの本」などで知られる画家。出版界から悼む声」https://www.huffingtonpost.jp/entry/anno_jp_600288e1c5b62c0057bd29f4