「居心地がわるい」（平松洋子） - Living, Loving, Thinking, Again

平松洋子 *1「眠狂四郎とコロッケ」『本の窓』（小学館）392、pp.86-90、2020

映画の「任侠路線」が「とんと下火」「皆無に近い」昨今は「なんと糞つまらない世の中になったのだろう」という小沢信男氏*2の嘆き（「一茶忌」『みすず』2019年11月号）を承けて、

昨今の「反社会的」という言葉を安易に持ち出す風潮が、とても居心地がわるい。出演俳優が薬物使用していたという理由で国が映画の助成金を取り消したり、ドキュメンタリー映画への批判を恐れた主催側が映画祭での上映を中止しようとしたり*3、それこそ「自在な表現力」*4を痩せ細らせるイヤな力がちらつき、観客を馬鹿にするんじゃないと毒づきたくなる。
高倉健と池部良が決死の覚悟で殴りこみに向かうシーンは、いわずと知れた昭和の名作シリーズ「昭和残侠伝」*5第七作「死んで貰います」（一九七〇）の白眉である。池部良が懐にドスを仕込んで歩きはじめると、高倉健が「カタギのおめえさんを行かせるわけにはいかねえ」。すると、池部良がドスに指をかけ、親指で封をぶちり。「唐獅子牡丹」が流れるなか、池部良の名ぜりふ「ご一緒、願います」。こうして書いているだけで呼吸が荒くなってくるわけだが、あの名場面は、義理に生きる任侠の世界にあってこそ輝いたのである。（pp.86-87）