遭遇と好奇心(メモ)

梨木香歩*1「右往左往のただなかに在ること5」『毎日新聞』2020年6月21日


19世紀中盤のカンザス州の開拓民の女性たちの回想を聞き書きしたジョアナ・ストラットン『パイオニア・ウーマン』という本を参照しての記述。


(前略)当時、白人の建てた小屋を先住民が連れ立って頻繁に見物に来る、ということがあった。「白人社会のエチケットなどおかまいなしに」、「ノックもせずに入ってきて、すっかりくつろいでしまい」、台所に入ってきては面白そうに料理道具を手に取ったり、食べ物を試食したりした、という。今まで見たこともなかった異なる生活様式に、興味津々なのだ。それはそうだろうあ、自分がその立場になっても、と納得できる。確かにそういう彼らの好奇心を怖がる白人女性もいたが、1858年に家族と共にスコットランドからやってきて、結婚してキャンベル夫人となった白人女性は、先住民との付き合いがなかったら、新しい土地での暮らしに耐えられなかっただろう、とさえいっている。釣鐘のように膨らんだキャンベル夫人のスカートを、あるときしげししげと見ていた先住民の女性たちは、そっとそのスカートを持ち上げ、中のペチコートもちょっと持ち上げ、「とうとうスカートをたくし上げて見せてくれないかと言ったわ。スカートがふくらんでいるわけがわかると、三人とも涙を流して笑うこと笑うこと。先住民は笑わないなんて、大まちがいよ」。先住民女性たちが見たのは、針金や鯨骨などでフレームを作ったクリノリンだったのかもしれない。テントのように厚地の布で貼ったハリボテの様なものだったのかもしれない。いずれにしろ、仕組みを合点して、なるほど、と思ったのと、そこまでして膨らませる? という異文化との出会いの楽しさが炸裂している場面だ。
そこに蔑みは、微塵もない。