コペルは戦場に行った?

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

梨木香歩「今、『君たちはどう生きるか』の周辺で」『図書』(岩波書店)832、2018、pp.2-5*1


曰く、


次第に大きくなる軍靴の音に、なんとか青少年の精神を守ろうと、山本有三石井桃子吉野源三郎等に声をかけて始めた「日本少国民文庫」の、最後の巻として、一九三七(昭和一二)年、『君たちはどう生きるか』は刊行された。このとき十五歳の設定のコペル君は(作品発表年が、彼の作品に登場する年齢の年だと単純に仮定し計算すると)、一九二二(大正一一)年生まれだ。石井桃子の言う「失われた成長期」の害を被る、まさに直前の世代である(吉野源三郎らがこれほど思いをかけたまさにこの世代は、その後真っ先に戦争に駆り立てられる運命となるのだが……)。(p.5)
石井桃子、1951年に曰く、

このごろ、若い人たちを見たり親類の子どもをあずかったりしてみると、「むかし」の人間なら、常識で考えられないようなことをしたり、言ったりする。そんなとき、私は、この人たちは、からだは一人前でも、精神的には、栄養失調や奇型だと思った。そして、それは、その人たちのせいではない(後略)
(「新鮮な子供の感受性」、cited in p.4)
最近亡くなった方々だと、金子兜太*2水木しげる*3やなせたかし*4などの世代に重なる。『君たちはどう生きるか』の続篇を作るとしたら、当然「コペル君」が召集を受け・戦場に赴く話が中心にならざるを得ないだろう。「コペル君」はどんな戦争体験をしたのだろうか。他方、野坂昭如*5永六輔*6大橋巨泉*7石井桃子が「精神的には、栄養失調や奇型だ」と嘆いた世代に当たる*8
梨木さんの文章をさらに写しておく;

我々は共有する世相への不安とは別のところで、当時の社会がまだ保持していた、父性、母性の濃密さ……この作品に滲む、「子どもたちを守りたい」という「育む力」の強さにもまた、密かに圧倒されているのではないだろうか。昨今の子どもたちの置かれている(ネット上で写真が売買されているなどの)殺伐とした状況のなかで、コペル君の「立派な人間」になろうとする努力や、子どもや若いひとに積極的に温かい視線を送り、関心を持ち続け、手を差し伸べる大人たちに対する、ノスタルジーを超えた潜在的な「慕わしさ」も、この「流行」の背後にはあるような気がしてならない。(p.5)
タイトルは『ジョニーは戦場へ行った』から。
ジョニーは戦場へ行った (角川文庫)

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