「地方のヤンキーたちのカリスマ」

阿部真大『地方にこもる若者たち』*1に曰く、


1980年代のJポップは、大人の世界を若者の立場から批判することで若者の支持を広げてきた。80年代の日本を代表するロックバンドであるBOØWY*2はその象徴である。彼らの特徴は、単なる企業社会の批判にとどまらない射程の長さにあり、だからこそ、彼らは巨大なポピュラリティを得ることに成功した。
BOØWYの音楽は群馬県高崎市出身であるという彼ら自身の出自が物語っている通り、地方に生きる不良少年、いわゆる「ヤンキー」たちのバイブルであった。成長した彼らは、今でもなおフロントマン氷室京介やギタリスト布袋寅泰のライブに足しげく通い、巨大なマーケットを形成している。(後略)(pp.94-95)
「1980年代のJポップは、大人の世界を若者の立場から批判することで若者の支持を広げてきた」という大命題というか一般的命題については、ほんとうかよ? という感じは持っている。ただ、「ヤンキー」と音楽というと、どうしても矢沢永吉を初めとするキャロルの面々が機械的に結び付けられる傾向はあると思うけれど、ちょうどBOØWYがブレイクした80年代、矢沢はウェスト・コースト系の音楽へと転換し、ジョニー大倉は役者としての活動に軸足を移していたのだった。そういう転形期だった当時、今後ツッパリたち*3はどんな音楽を聴いていくんだろうね? と他人事ながら心配していた。空白はBOØWYによって埋められたということになるか。そういえば、音楽性は全然違っているけれど、BUCK-TICK*4群馬県出身だよね。ただ、「若者」というのが漠然としすぎている。「若者」って誰よ? 中学生なのか高校生なのか大学生なのか?それとも労働者、或いはフリーター? また、男なのか女なのか?
それはそうと、BOØWYについては故佐久間正英も言及していたのだった*5

鈴木:僕らの世代からすると、今のバンドが殆ど海外の音楽からの影響を受けなくなっている。そこらへんの起因はどのようなものがあると思いますか?

佐久間:そうですね。僕もそのことがずっと不思議で、時代的にBOOWYの時代、日本のロックが主流になって以降ずっとそうで、確かに日本のロックと海外のロックは全く別物になってしまいました。

鈴木:BOOWYミスチルの功罪というか、今若いバンドが影響を受けるのが大体この2バンドとかGLAY 、彼らはこれらのバンドのルーツを掘ることをしない。「どうして氷室さんが影響を受けたアーティストまでいかないのか?」広義でいうルーツミュージックに辿りつかなくなっている。

佐久間:情報が無かった故に見えた部分と、情報が多いから偏ってしまう、この両方があると思います。パンクならTHE BLUE HEARTSにしても、本人たちはブルーズの影響が根底にあって、たまたま日本語で歌ったらああいう歌になっただけで、後から影響を受けた世代が過剰に神様に祀り上げてしまっている部分もあるんじゃないでしょうかね。
日本のロックが海外の音と別になった背景について、知り合いには佐久間さんがA級戦犯だと言われまして(笑)。あともう一つ最近、北関東の田舎に住み始めて気づいたことなのですけど、日本特有のヤンキー文化の影響というのが大きい。ドメスティックなものになった理由や海外のものを取り入れない風土、あの独特の強さを強調する部分が、海外の感覚からずれちゃっている。こんなこと全然考えたことが無かったんですけど、最近になってよくよく考えると整合性がとれるんです。

*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131217/1387215045 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/02/04/122203

*2:https://boowy35th.com/ See eg. https://ja.wikipedia.org/wiki/BOOWY

*3:当時、まだ「ヤンキー」というのは完全に全国区的な言葉ではなかった。

*4:http://www.buck-tick.com/

*5:佐久間正英鈴木健士「佐久間正英からの提言(前編)〜日本人が海外のバンドに勝てない理由、これからの戦い方」http://mutant-s.com/special-interview01_01/ Cited in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131112/1384222612