或るギャップ

イエス・キリストは実在したのか? (文春文庫)

イエス・キリストは実在したのか? (文春文庫)

レザー・アスランの『イエス・キリストは実在したのか?』の原題は、Zealot: The Life and Times of Jesus of Nazarethであって、直訳すれば、『熱狂者:ナザレのイエスの生涯とその時代』という感じになる。Zealotについて、訳者の白須英子さんは「訳者あとがき」にて、


(前略)大文字で始まるZealot(s)は、イエスの死後、三〇年以上あとに起こった紀元六六年の「第一次ユダヤ戦争」で、ローマ人によるパレスチナ占領と、彼らと手を結ぶユダヤ人支配階級に対して蜂起した「熱心党員」と呼ばれるユダヤ人反徒たちを指すが、本書の表題が意味するところとは少し違う。
元々の小文字で始まるzealotは「熱心にあることのために力を尽くす人」という意味で、その語根に当たるzeal(熱情)という言葉は、ヘブライ語では「キナー(qin'ah)」と言い、宗教的あるいは倫理的な情念を表す言葉として、旧約聖書の「出エジプト記」「民数記」「申命記」などにも数十回出てくるほど長い歴史がある。(p.427)
と書いている。
旧約聖書 出エジプト記 (岩波文庫 青 801-2)

旧約聖書 出エジプト記 (岩波文庫 青 801-2)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1969/01/16
  • メディア: 文庫
何が言いたいのかというと、『イエス・キリストは実在したのか?』って一見トンデモ本みたいなタイトルだけど、全然そんなことはないということだ。そもそも、この本では耶蘇(「ナザレのイエス」)の歴史的実在性は全く疑われていない。典拠の出し方や先行研究との擦り合わせを含む論述の仕方には説得力がある(と思った)。だから、『イエス・キリストは実在したのか?』というタイトルに惑わせられないのでね!
そういえば、「イエス・キリスト」のバイオグラフィを巡っては、私の知識は、これまで、荒井献『イエスとその時代』からあまりアップデイトされていなかったような気がする
イエスとその時代 (岩波新書)

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