- 作者: 吉本隆明,小川国夫
- 出版社/メーカー: 小沢書店
- 発売日: 1998/11
- メディア: 単行本
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吉本隆明、小川国夫「新共同訳聖書を読む」*1(『宗教論争』、pp. 155-191)から。
小川国夫の発言を中心に。
(前略)
終末論というのは仏教の中にもあって、仏教の終末は輪廻が延々と続いたその果てにあるわけですね。だから、生態系を説明しているようでもあって、生物学的な感じがします。ところが聖書の中の終末論というのは、あえて言えば法律的なんです。良い悪いを全部洗い出して……。
吉本 裁くんでしょう。
小川 裁くのですよ。それはやっぱり非条理の重圧に耐えて耐え抜いた種族の考えそうなことだと思うんですよ。キリストは、逮捕される日に、終末論的な壮大な詩を歌っていますよ。転地は震動して、空の星は落ちるというような詩を。だから本当にイスラエル思想の嫡子というか、後継者ですね。その終末論が、まだ命脈を保っているというか、現代にも息を吹き返してきている。現代人の気持ちにも出てくるわけですけどね。
だから終末論というのは、やっぱり歴史の産物だと思います。それはバビロンの虜囚の詩ですね。(略)イザヤ、エレミヤ、ホセア、エゼキエル等を読むと、内ゲバもありますし。つまり法廷に誰を立たせるかということになると、アッシリアとかバビロンの他種族と同時に同胞も対象になるんですよ。しかも必ず正しい裁きをつけてほしいということですね。それが最後の審判という観念に結集したんじゃないかと思います。これは実に奇怪な思想なんですけども、それがやっぱり聖書の根っこなんですね。それがないと迫力ないですよ。
吉本 そうです。
小川 (略)仏教は生物学的な感じがするといったけど、聖書は法律的な感じがするし、もう一つの特徴は宇宙物理学的なんですね。星が落ちるとかね。創世記からしてそうです。創世記には当時の学問的な成果が動員してぶち込んでありますね。植物分類学、それから地球構造を説明したりしてありますが、とりわけ宇宙物理学まがいのところが、聖書の特徴だと思うんです。今の宇宙物理学でも言っているでしょう、太陽系宇宙の終わりはあるし、ましてや地球の終わりなんていうのはやがて来ると。だから聖書の書いていることが、なんとなくそういうところへ符合しているような感じがあるんですね。
宇宙の終わりというのは、物理的に来るんでしょうが、聖書の場合は感情をこめているんです。その感情は呪いですよ。正しい裁きという考えの中には希望もありますけども、呪いもある。そのもやもや渦巻いているうっぷんやるかたない気持ちが、天地は鳴動するとか星は落ちるとかって、壮大な幻想につながっていくわけですね。ですから幻想の展開のし方を見ても、いかに審判への渇望が大きいかということが解ります。見事な表現になっているわけです。
(後略)(pp.188-190)
- 作者: 関根正雄
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