「もはや」?

加谷珪一「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190827-00010012-newsweek-int&p=1


タイトルにある「もはや」というのはちょっと?だろう。本文では「もはや」ではなく「もともと」そうだったという話が展開されているのだ。


日本の労働生産性は先進各国で最下位(日本生産性本部)となっており、世界競争力ランキングは30位と1997年以降では最低となっている(IMD)。平均賃金はOECD加盟35カ国中18位でしかなく、相対的貧困率は38カ国中27位、教育に対する公的支出のGDP比は43カ国中40位、年金の所得代替率は50カ国中41位、障害者への公的支出のGDP費は37カ国中32位、失業に対する公的支出のGDP比は34カ国中31位(いずれもOECD)など、これでもかというくらいひどい有様だ。

日本はかつて豊かな国だったが、近年は競争力の低下や人口減少によって経済力が低下しているというのが一般的なイメージかもしれない。だが、現実は違う。

先ほど、日本の労働生産性は先進各国で最下位であると述べたが、実はこの順位は50年間ほとんど変わっていない。日本経済がバブル化した1980年代には、各国との生産性の差が多少縮まったものの、基本的な状況に変化はなく、ずっと前から日本の生産性は低いままだ。1人あたりのGDP国内総生産)が世界2位になったこともあるが、それはほんの一瞬に過ぎない。

また、

日本が輸出大国であるという話も、過大評価されている面がある。

2017年における世界輸出に占める日本のシェアは3.8%しかなく、1位の中国(10.6%)、2位の米国(10.2%)、3位のドイツ(7.7%)と比較するとかなり小さい。中国は今や世界の工場なので、輸出シェアが大きいのは当然かもしれないが、実は米国も輸出大国であることが分かる。驚くべきなのはドイツで、GDPの大きさが日本より2割小さいにもかかわらず、輸出の絶対量が日本の2倍以上もある。


ドイツは過去40年間、輸出における世界シェアをほぼ同じ水準でキープしているが、日本はそうではない。1960年代における日本の輸出シェアはかなり低く、まだ「安かろう悪かろう」のイメージを引きずっていた。1970年代からシェアの上昇が始まり、1980年代には一時、ドイツに肉薄したものの、その後は一貫してシェアを落とし続けている。
そして、加谷氏の日本経済史の見立ては以下のようになる;

日本は1960年代までは敗戦の影響を色濃く残しており、社会は本当に貧しかった。しかしオイルショックを経て、70年代の後半から日本は徐々に豊かになり、バブル期には一時、欧米各国に近づくかに見えたが、そこが日本のピークであった。
 
日本は「昔、豊かだったが、今、貧しくなった」のではなく、日本はもともと貧しく、80年代に豊かになりかかったものの「再び貧しい時代に戻りつつある」というのが正しい認識といってよいだろう。
「バブル」の頃も、日本経済は資本主義も社会主義アウフヘーベンした「人本主義」だというような自画自賛的な論説が横行する一方で*1、日本の「生産性」が低いということは普通に語られていた。例えば、ブルーカラーの生産性は高いけれどホワイトカラーの生産性は極度に低いとか。そして、生産性の低いセクターをお情け無用に切り捨てて日本経済のサヴァイヴァルを図っていこうとする新自由主義的な言説もバブルの中に既に芽生えていた筈。