Seiko spoke

承前*1

矢内裕子「追悼・田辺聖子さん「人生の喜びは、一人でも多く、話の合う人を獲得すること」」https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190612-00000063-sasahi-soci


矢内さんは「ポプラ文庫の立ち上げ編集長を務めたとき、「田辺さんの短編小説コレクションを出したい」と考えた」のだという。


「私は会社の乗っ取りも知らないし、浮世をしのいでいく知恵もない。大きな話よりは家庭の中の小さなこと、ごく身近なことしか発想できないから、いつも細々としたお話になっちゃう」

「でも、人生って、結局はささやかなものから成り立っていると思うのね。人が生きていくうえで一番大事なことは、いつも横にいる人と上手くいく――ということ。私はもっぱら、家族構造専門ですけど、家庭の出来事にも、目には見えない人間の大きな意味があると思うんです。大きな事件が起こらない『ただごと小説』だからこそ、気をつけるべきは台詞がマンネリにならないことね。日常レベルの台詞でも、つまらなく書いてはだめ」


「目で見ても美しい大阪弁を」と、大阪を舞台に、溌剌たる大阪弁で繰り広げられる恋愛小説を書いた。

話し言葉は字で書くと少し匂いが違いますから、そこを読んで美しく、耳で知らない読者にもわかるように書くのが物書きの仕事。そして物書きのいちばん大事な心得ね。小説は『文字の芸術』なんですから」

「小説で会話を書くのは、難しいけれど、面白い。私の登場人物たちは、よく話をしているでしょう。それは私自身が、人間には言葉というものがあるんだから、せっかく人と生まれたからには『言葉の試合』を楽しみたい、と思っているから。人生の喜びは、一人でも多く、話の合う人を獲得することじゃないかしら。別に付き合うとか結婚するとかだけでなく、お互いに興味を持って、好奇心を発動させて、いろいろなことについて語り合えたら楽しいじゃない」


「小説って、消えてしまう人間の気持ちとか、確かにしゃべったんだけど相手に伝わらなかった、本当の心の想いを留めておくものじゃないかしら。そう思うと、人間の社会にはドラマチックなことがいっぱいある。私が考える小説は『誰が何をした』という筋ではなくて、人間の日々の生活を丁寧に描くことなんです」