「「働く女の子」を描いた」作家

承前*1

三宅香帆「追悼・田辺聖子 25歳の働く女性は、田辺作品の「舐めんな」に励まされた」https://bunshun.jp/articles/-/12371


1973年の小説『言い寄る』を中心に。
少し抜書き。


田辺聖子、の名前を聞いて思いつくジャンルは人によってさまざまだろう。恋愛小説だったり、古典の新訳だったり、はたまたあの映画の原作だったり、朝ドラだったり。だけどそのどのジャンルの中にも、実は、田辺聖子は必ず「女性と労働」というテーマをしのばせていた。いや、女性と労働なんて頭の固そうな言葉でまとめてしまっては、その魅力が失われてしまう。率直に言えば、「働く女の子」を描いたのが田辺聖子という作家だった。

 紫式部も実は宮中で働くOLだったし、田辺作品のヒロインはいつも恋をしつつ働く女性で、そもそも田辺聖子自身も書くことを仕事にする女性である。田辺聖子鶴見俊輔との対談のなかで、「世間には、若い女の子が結婚せずに仕事をつづけたいのに、親は「仕事やめて結婚しろ、しろ」というケースが多いでしょう。わたしなら、仕事にかけたいという娘ならいくらでもあと押ししてやるのに」 (注)と述べている。

 女の子が働くこと。田辺聖子が1958年にデビューし、1964年の東京オリンピックが終わって「OL」という言葉が生まれた時代に、それは小説の新しいテーマだった。


翻って50年後の2019年現在、田辺聖子は旅立ってしまったけれど、それでもまだ、彼女が描いた作品は、まったく、古くない。

 何が古くないかといえば、もちろん男女の趣味のいい会話や、週末に飲むビール、女友達とぐだぐだと話す時間など、今も「わかる!」と共感してしまう場面の描き方もあるけれど。同時になにより、田辺聖子の描くヒロインが無言で発する「舐めんな」とでも言いたげな姿勢が、今もなお田辺作品が読まれる理由ではないだろうか。