「銅製の蛇」

蛇儀礼 (岩波文庫)

蛇儀礼 (岩波文庫)

アビ・ヴァールブルク『蛇儀礼』(三島憲一訳)*1から。
プエブロ=インディアンにとって、「蛇」は「稲妻の象徴」である(p.22)。また、電線は「エジソン作になる銅製の蛇」とも言える(p.94)。


ガラガラ蛇は今日*2アメリカ人にはいかなる恐怖も引き起こしません。蛇は殺されるだけで、神として崇敬の的になることはありえません。蛇を待ち受けているのは、むしろ絶滅の危機です。電線の中に閉じ込められてしまった稲妻、つまりそこに取り込まれている電気が作り出した文化のあり方は、異教世界を消し去ってしまいました。異教世界に代わってこの文化はなにを生み出すのでしょうか。自然の森羅万象はもはや人間や他の生き物に見立てられたりすることはなくなり、スイッチ一つで人間の思いのままになる波動でしかありません。機械文明の文化はこの波動を通じて、神話から生まれた自然科学が苦労して得たもの、つまり宗教的儀礼の空間を変じることによって得た思考の空間を破壊するのです。
近代のプロメテウスと近代のイカロス、つまりフランクリンと、操縦可能な飛行機を発明したライト兄弟は、あの遠さの感覚を破壊した恐ろしい存在です。彼らは、地球を再びカオスへと引き戻しかねないのです。
電信と電話は宇宙の秩序の破壊をもたらします。神話的思考と象徴的思考は、人間と環境の間の結びつきの精神化をはかる戦いの中で空間を宗教的儀礼の空間とし、やがては思考の空間へと変えてきたのです。しかし、こうした崇敬の空間、そして思考志向の空間は、電気による一瞬の結びつきによって破壊されるのです。(pp.94-95)