村上光彦『鎌倉幻想行』

鎌倉幻想行

鎌倉幻想行

数日前に村上光彦『鎌倉幻想行 paysage imaginaire』(朝日新聞社、1986)*1を読了。


失われた小径
黄泉への道
落ち葉散り敷く迷路を
穴のあいた貝殻
地から天をめざして
泉を尋ねて
泉と墓
首と墓
山道と想像力
洞窟と想像力


あとがき
初出一覧

1971年から1980年にかけて書かれ、ここに収録された10本のエッセイは「いずれも鎌倉散歩が機縁となって生まれたもの」だが(「あとがき」、p.252)、「鎌倉の散歩道の記述を目的とした文章では」ない(ibid.)また、、最後の「洞窟と想像力」では「鎌倉」は直接の言及の対象、他の「鎌倉」に関する省察を踏まえた、「秘儀」的空間としての「洞窟」を巡る壮大な比較文学論になっている。
「あとがき」に曰く、

もともと、この本は鎌倉の現実を語るための書物ではありません。副題にフランス語で«paysage imaginaire»(想像上の風景)と添えてあるように、わたしがこれらの文章を書きながら追い求めていたのは眼前の風景ではなく、私の年来の研究題目である《秘儀参入の旅》の文学からたちのぼる幻の風景だったのです。《密儀》あるいは《秘儀》については、たとえばA・ファン・ヘネップ著『通過儀礼*2(一九〇九年刊。綾部恒雄・裕子訳、昭和五十二年、弘文堂刊)、マンリー・P・ホール著『古代の密儀』(一九二八年刊。大沼・山田・吉村訳、昭和五十五年、人文書院刊)などをご参照ください。(p.253)
通過儀礼 (岩波文庫)

通過儀礼 (岩波文庫)

ところで、古本屋でこの本を買ったとき、カヴァーに使われている一ノ瀬裕という画家*3の抽象画の力が強かったことは記しておかなければならない。