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蛇儀礼 (岩波文庫)

蛇儀礼 (岩波文庫)

アビ・ヴァールブルク『蛇儀礼』(三島憲一訳)から。


階段や椅子は、自然の生成や有為転変を視覚的象徴で表そうとする者にとっては、人類の根源的経験を示しています。それは、空間の中での上昇と下降の関係を闘い取ることの象徴であり、また円環は、くねった蛇と同じに、時間のリズムの象徴であります。
四本足で動くことをやめ、垂直歩行を始めた人間は、上方を見て、重力を克服するためには補助手段が必要となり、階段という道具を発明したのです。それによって、動物より低い能力をより高等なものに変換できたのです。人間は生後一年して立ちあがることを覚えると、階段がいかにありがたいものかを学びます。まず動くことを覚えねばならない生物であるおかげで、頭を上方に向けうるという恩寵を感じ取るのです。登るというのは、人間の優越したところです。地面から天に向かって一生懸命に登るのです。歩くことを覚えた人間に、頭を上に向けて進むという高貴なあり方を可能にしてくれる象徴的行動が「登る」ということなのです。
空を見上げると言うことこそ人類にとっての恩寵であり、また呪いでもあるのです。(pp.31-34)