両性具有?

海亀の性別は産卵する砂の温度によって決定されるということを知ったのは、息子に『世の中のふしぎ400』という本を読んであげているときだった。


西川伸一*1「温度で性が決まる爬虫類の研究は、温暖化による爬虫類の絶滅を防げるか?」https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20180518-00085329/


性別が温度によって決定される種は爬虫類には多い。特に、鰐は全ての種で性別が温度によって決定されている。地球温暖化はこれらの種に性別の偏りをもたらし、種の絶滅に追い込む危険がある。


多くの皆さんは、どうして同じ遺伝子でオスとメスができるのか不思議に思われるかもしれません。しかしよく考えてください。私たちの体の細胞は原則的に同じ遺伝子を持っています。それでも、体の中に神経細胞や血液細胞のように似ても似つかぬ細胞が共存しています。このように同じ遺伝子なのに、全く違う性質ができるメカニズムをエピジェネティックス*2と呼んでいます。これは、それぞれの遺伝子ごとにスィッチをオンにしたり、オフにするメカニズムのことで、最近急速に明らかになってきました。このスィッチには遺伝子が巻きついているヒストンというタンパク質を化学的に修飾することで行われています。温度による性決定を理解する鍵もこのエピジェネティックス機構にあります。

今日紹介したい論文は、中国の新しい大学・浙江万里学院と米国デューク大学が共同で発表した論文で、アカミミガメを用いて温度で性が決まる仕組みを報告しています。(Ge et al, The histone demethylase KDM6B regulates temperature-dependent sex determination in a turtle species(カメの温度依存的性決定はヒストン脱メチル化酵素KDM6Bにより調節されている)Science 360: 645-648, 2018: DOI: 10.1126/science.aap8328)。

この研究ではアカミミガメ(冒頭の写真に示す)と呼ばれるアメリカ原産のカメが選ばれて研究に用いられています。このカメは、発生の特定の期間に温度が26度だとオス、32度になるとメスになることがわかっています。実際に孵化するときの気温はこの間に収まりますので、温度に応じてオス・メスの比率が変わることになります。遺伝子は変化しないわけですから、この研究では温度によって変化するエピジェネティックス機構を探った結果、ヒストンの27番目のリジンのメチル基修飾を外す(脱メチル化と呼びます)分子の一つ、Kdm6bの生殖原器での発現量が、オスに性が決まってしまう温度26度で上昇することを突き止めます。逆に、同じ発生段階に温度を26度から32度にすると発現は低下します。すなわち、温度に反応してオンになったりオフになったりする分子がついに突き止められました。

本当にKdm6b がオスへの分化を指令できるのか調べる目的で、オスになる26度で卵を孵化させるとき、分子の発現を人為的に抑制すると、期待通り80−87%の個体がメスへと転換できました。詳細は省きますが、色々実験を行なった結果、Kdm6bが、ほとんどの種でオスへの性決定を決めているDmrt1遺伝子が巻きついているヒストンのメチル基修飾を外して、安定的にDmrt1遺伝子をオン状態にすることで、温度変化をオスへの性決定に結びつけることがわかりました。

遺伝子の準位では雌雄のどちらにもなれるということで両性具有といえるのかも知れない。所謂雌雄同体の場合だと、雌性と雄性が同時に発現するわけだけど*3、こちらの場合は、一旦雌雄のうちのどちらかに決定されてしまったら後戻りできないわけだ。
また、遺伝子の準位では両性具有で産卵時の温度で性別が決定される種はどうして爬虫類に集中しているのかということも気になる*4