承前*1
黒岩揺光「相撲界での暴力事件をなくしたいのなら、他のスポーツ選手による暴力事件も同じように熱く報道しましょう」http://www.huffingtonpost.jp/yoko-kuroiwa/harumafuji-resign-mongol_a_23291161/
モンゴル文化還元論への批判;
「モンゴルでは上下関係が厳しい」というのも検証の必要あり。
中には「モンゴルでは上下関係が厳しいから、背景にはモンゴル文化の影響もあったのでは」と言うコメンテーターまでいた。このコメンテーターは2007年に私の故郷、新潟出身力士が稽古中に命を落とした事件*2を忘れたのだろう。入門したばかりの当時17歳の力士が稽古の厳しさから部屋を脱走後、親方の指示で他の力士から集団暴行にあい、亡くなったのだ。問題は、亡くなった二日後に遺族が解剖を要請し、その結果が出るまで、力士が所属していた部屋は組織ぐるみで事件を隠蔽しようとしていた点だ。今回の日馬富士の件、事件の現場にいた白鵬や、報告を遅らせた貴乃花親方らの責任を問う声もあるが、上記の傷害致死事件で処分を受けたのは、実際に暴行を加えた親方と兄弟子3人だけだった。部屋に所属していた他の10人以上の力士たちは、何の罰則を受けることもなく、土俵に立ち続けた。力士が亡くなって、事件が明るみになるまでの数日間、部屋に所属する力士全員、「暴力的な親方がいる部屋で、稽古の厳しさから部屋を脱走し、その親方を怒らせた力士が稽古中に亡くなった」という事実を知らないはずがないにも関わらずだ。どのメディアも、親方の責任にばかり集中し、他の力士たちが口を塞いでいたことに関してはほとんど問題視しなかった。それどころか、当時、この事件と同じくらい、メディアをにぎわせていたのは、横綱朝青龍が病気休養中にモンゴルでサッカーをしていたことだった。確かに横綱がずる休みをするのは悪いけど、傷害致死事件を見過ごしたわけではないのだ。朝青龍は二場所出場停止処分を受け、傷害致死事件を起こした部屋の力士たちは土俵に立ち続けた。
こういった一連の流れを見ると、今回の傷害事件がここまでの報道合戦に至ったのは、日馬富士がモンゴル人だということと関係があるのではないかと思ってしまう。長年日本人横綱が不在でモンゴル人の独壇場であった相撲界で、その先頭を走る力士による不祥事を大きく扱うことで、長年溜まった鬱憤を晴らそうとしているようにしか思えない。
阿部慎之助がそんな事件を起こしていたということは初めて知った。「巨人」=「プロ野球界」の「横綱」という表現に対しては異議を申し立てる人も多いのでは?
「日本人か外国人かは関係ない。日馬富士が横綱だからだ」と言う方もいるだろう。確かに横綱による傷害事件は大きなニュースだ。しかし、2012年、プロ野球界の「横綱」的存在である巨人の阿部選手が、試合中に後輩選手の頭を叩いたにも関わらず、何の処分も受けなかった。誰がどう見ても立派な暴行事件である。もし、暴力根絶を目指すのなら、なぜ、阿部選手の行為を問題視することができなかったのか。阿部選手の行為を生中継で報じていたテレビのアナウンサーが放った一言が今でも忘れられない。「ああ、(二人は)大学の先輩と後輩ではありますが」。先輩と後輩だったら数万人の前での暴力が許されるとでも言いたいのだろうか?日本社会には「後輩が先輩にたてついたら、ある程度の暴力的制裁が下されるのは仕方ない」という考えが染みついている。じゃなければ、今回の件で貴ノ岩の言動についてあそこまで詳細に報道はしないだろう。でも、八角理事長が宣言した「暴力根絶」を本当に目指すのなら、この考え自体を改める必要があるのではないか。
*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171114/1510680077 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171115/1510758946 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171117/1510890688 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171129/1511961577
*2:所謂時津風部屋事件。See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070930/1191161614 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100211/1265820994 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100705/1278260670 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140813/1407858885 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171114/1510680077 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171115/1510758946