中間層問題

承前*1

山田敏弘「世界から見た大相撲問題の本当の「異常さ」」https://a.msn.com/ja-jp/news/opinion/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A6%8B%E3%81%9F%E5%A4%A7%E7%9B%B8%E6%92%B2%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AE%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AE%E3%80%8C%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%95%E3%80%8D/ar-BBGke6M?ocid=spartanntp#page=2


日馬富士による貴ノ岩に対する暴力事件。この人の知人のカナダ人は、「秋巡業の鳥取場所に訪れていた横綱3人を含むモンゴル人力士など少なくとも5人が、大会前日に一緒にラウンジの個室で酒を飲んでいて、暴行事件になったこと」に反応したという;


すると、それまで相槌を打ちながら聞いていた知人は、力士たちが一緒に酒を飲んでいたとの話の部分で「それは相撲の世界ではオッケーなのか?」と聞いた。

 そう、その問いこそが「異常さ」のひとつなのだ。

 これから戦う者同士が、試合の前日に一緒に過ごしているというのは、このジャーナリストに違和感を覚えさせたのである。さらに会話が進むと、「相撲は“Fixed”(不正に仕組まれている)だと言われても文句は言えないな」と、知人は言った。

 客観的に見ると、個人戦の相撲で対戦するはずの仲間同士が仲良くしていると、取り組みに関しても“助け合っている”可能性を指摘する声が出るのはもっともである。相撲を愛する人たちにしてみれば「普段一緒に飲んでいても、星を“助け合う”なんてことはあり得ない」と言いたいかもしれないが、相撲を贔屓目(ひいきめ)に見ない「外部」にはそれは通らない。

 結局、外国人には大相撲が「Fixed」であるかのように映ってしまう。少なくとも、世界的にもそう認識されても仕方がないということだ。欧米ではどんなスポーツも賭博の対象になっているし、勝負には多額の賞金が出る。例えば、今回の騒動を報じた英公共放送BBCは、顛末に加えて、力士がトップに上り詰めると、スポンサー料などを含め月に6万ドルは稼ぐと書いている。大金が動く勝負の世界では、「真剣勝負かどうか」「不正はないか」というのは非常に大事な部分である。

 週刊新潮は12月7日号で、モンゴル力士同士の「星のまわし合い」(いわゆる“無気力相撲”を取るなど)について詳細な記事を掲載している。それを受けて、日本相撲協会は抗議文を送ると発表しているが、もちろんこうした疑惑はこれまでも相撲の世界で何度も指摘されてきた話である。にもかかわらずモンゴル人力士同士が大会前日に一緒に酒を酌み交わしていたという事実自体、相撲界の認識の甘さを露呈している。

角力にせよ野球にせよ、スポーツの透明性を向上させるには公営ギャンブル化が有効なのだろうか。

 外国の相撲ウォッチャーの間で、相撲は「Fixed」だと見ている人は少なくない。その理由のひとつには、2007年に米国で出版されたベストセラーの『Freakonomics(邦題:ヤバい経済学)』という書籍がある。ジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナー氏と、大学教授のスティーヴン・D・レヴィット氏が共同で書いた同書には、相撲についての話が登場する。

 2人は1989年から2000年までの取り組み結果のデータを駆使して、千秋楽で「7勝7敗」の力士についてデータを調べている(力士は1日1戦、15日の15戦を戦う)。相撲では基本的に勝ち越しによって番付が昇格する可能性が高まり、賞金も増える。それを踏まえて、同書は、千秋楽に「7勝7敗」の力士と「8勝6敗」の力士が対戦したときのデータをまとめている。「8勝6敗」の力士は千秋楽で破れても勝ち越すことが決まっており、「7勝7敗」の力士はその取り組みで勝ち越しできるかどうかが決まる。

 そこで過去のデータを見ると、「7勝7敗」の力士が勝つ可能性は普通なら48.7%だが、実際には、79.6%になっていることが分かったと、同書は指摘している。ちなみに「7勝7敗」同士の力士の取り組みでは、両力士とも勝ち越したいために「Fixed」される可能性は低く、真剣勝負になる可能性が高いことが分かったという。同書はこれについて、「最も理にかなった説明は力士らが星のまわし合いの合意をしていることだ。どうしても勝ち星の必要な今回勝たせてくれたら、次回は勝たせてあげる、というものだ」と指摘している。

 この本は400万部を売り上げ、35カ国で翻訳された大ベストセラーで、社会現象にもなった本である。世界中で多くがこの話を読んでいることになる。

『ヤバい経済学』については以前にも間接的に取り上げていたのだった*2。そのときにも言及したのだが、既に1980年代に千秋楽における勝率問題を集計していた人がいて、それによれば、勝率は8割どころか9割にも達していたという*3
まあ角力という階層社会には底辺(序の口、序二段、三段目、幕下)に夥しい取的が犇めいている一方で、頂点の方では横綱大関を目指すエリートがいる。また、その中間には、(幕下に転落することはできるだけ避けつつ)前頭下位と十両の間を行ったり来たり、上がったり下がったりしている人たちがいる。上で謂う千秋楽の〈奇跡〉はこうした層に関わっている。うすうす感付かれながらそんなに問題にならなかったのは、千秋楽といえば、ファンもメディアもみな優勝争いに注目しており、7敗力士が勝ち越せるかどうかということに関心を集中させる人はあまりいないからだろう。また、そういう層の力士が優勝争いに絡むということもまずありえない。さらに、「星のまわし合い」をするには演技力が必要だということもあるだろう。また、「八百長」こそ日本文化だという意見もある*4
さて、相撲協会の理事会の最中に、外部理事で元検事の高野利雄氏が鳥取県警の幹部に直接電話をかけたことも問題視されている。これは相撲協会の問題というだけでなく、検察と警察の関係という問題でもあるだろう。